南イタリアでビーチ、温泉+シーフード

ウニはシーズンオフだったのが残念だった

6.イスキアのレストラン

イスキア島にはミシュランの星付きレストランがひとつしかなくて、それがGにはすごく不満だったみたい。でも私は、期待もせずにふらりと入った店で食べた味が、いまだに忘れられないでいる。こうやって、意外な所であれっ?と目をむくくらいにおいしいものに出会えることがあるから、イタリアっていいよね。

ポセイドンのそばの海の家風ピッツエリア


ポセイドンの中のレストランはセルフサービスでアメリカのカフェテリアみたいだったので、一食でもはずしたものを食べたくない私たちは、意を決して外に昼食を食べに出た。ポセイドンの周囲はずーっと海水浴場になっていて、海の家風のピッツエリアやカフェがところどころにあるし、ポセイドンは一度チケットを買えば、その日中なら何度でも出入り自由なのだ。広いポセイドンを出たのはいいけれど、炎天下の道はさらに延々と続く…。良さそうな店は見つからないし、これ以上歩いたら焦げてしまう…。私はたちまち音をあげて、そこにあった適当なピッツエリアに入ったのだった。
ところが、この店で食べたムール貝のパスタが最高においしかったのダ! ムール貝がびっくりするくらい新鮮で、今そこの海から取ってきたよ、みたいな感じ。白ワインソースのあっさりした味付けが、プリプリのムール貝をよく引き立てている。温泉につかった後でお腹がペコペコだったし、貝を指でつまんで身を歯でこそげ取りながら、パスタ一本残さず夢中で食べた。ソースもパンでこそげ取って食べたくらい。
たまたま新鮮な貝が入ったところに行き当たったんだろうか。でっぷり太ったおやじさんが厨房の中で大汗かきながら調理して、10代の前半と後半っていう感じの息子ふたりが手伝っている、ホントウにありふれたピッツエリアだった。店の脇までビーチチェアが並んで、人がトドみたいに寝転がっている。そのすぐ横で、ガタガタのプラスチックのいすとテーブルで食事するのだ。それなのに、こんなにムール貝がおいしいなんて! 店の名前も控えてないし、場所もうろ覚え。たぶんもう2度と行けないんだろうな。

ホテルのお姉さんが推薦してくれたアルベルト

ホテルのお姉さんが近所で行くならここがいいと推薦してくれた、海に突き出たレストラン。外から見た感じはあんまりぱっとしないし、ここにたどり着くまでが暑くてヘトヘトになってしまい、もうしょうがないって感じで入ったんだけど、一歩入ってびっくり。海に面した3方の窓から風がさあっと入って、白いテーブルクロスをはたはたと揺らしている。大きな窓からは海が一面に見渡せて、お店は広くて清潔。ホントウに気持ちがいいのだ。
こうやって風に吹かれて、きりっと冷えた白ワインを飲んで座っているだけでも充分気持ちがいいやと満足だったけど、ここで食べた小イカのフライは、小指の先くらいのこんな小さなイカにお目にかかったのも初めてで、それがカリっとジューシーにあがっていて、おもしろ珍しくおいしかった。
この店にはランチに行ったんだけど、ディナーに備えて控えめに食べて(飲んで)いる私たちがワインを一本飲み干すと、グラスにたっぷりリモンチェッロを注いで出してくれた。シェフにお任せのテイスティングメニューもあり、ワインもリストにたくさん。ミシュランに載っていないのが不思議なくらいの、ちゃんとしたレストランだった。

ダミアーノ

ミシュランにフォークふたつで載っていた、山の中腹にあるレストラン。海に手が届くというわけではないけれど、山から海まで見渡せる景色が窓の外に広がっている。
行った時には私たちの他に客が誰もいなくて、しばらくたってもぜんぜんお客が来なくて、なんだか淋しかった。家族経営のお店の人たちは、ほとんど英語がしゃべれなくて、コミュニケーションできないし。身ぶり手振りで聞いたところでは、平日はいつもこんなもんで、週末が忙しいんだとか。それでもお店の真ん中にはどーんと氷のケースがあって、おいしそうな魚がぎっちり入っている。お客も来ないのにこんなに仕入れちゃっていいのかしら…?
ここで食べたタコのマリネと貝のパスタはむちゃくちゃおいしかった。パスタなんてお代わりしちゃったくらい。ケースから選んだホウボウのトマトソースアクアパッツァが出てくるころには、お腹がいっぱいになっちゃったんだけど、Gは調子に乗ってレモンクリームがたっぷりかかったシュークリームまでデザートに頼んでた。サービスなのか元々なのか、どの料理もお皿にてんこ盛りで出てきて、アメリカのレストランで相当鍛えられてる私たちだから食べられたって感じかな。

私たちがメインディッシュを終える頃になって、やっとふた組目のお客さんが入ってきた。ここにはもうずうっと通っていますという感じの老夫婦だ。レストランに来るには、階段を相当登らなくてはならないので、若かった頃はともかく今は大変だろうなあ。この人たちが静かにゆっくり食事している姿は、年季が入っていてこなれていて、圧倒されちゃったよ。奥さんが洗面所にたつ時は、だんなさんはもちろん椅子を引いてあげる。そして自分の椅子の横に立ったままで、戻ってくるのを待っているのだ。すごいステキだった。

イル・メログラーノ★

イスキア島で唯一のこの星レストランには、2回も行ってしまった。Gがメニューに無いイカ墨スパゲティが食べたいとお願いしたら、「明日市場で買ってくるから」と言われて、またそれを食べに行ったのだ。最初に言った日は平日だったので、客は私たちのほかにふた組くらい。2回目は金曜日だったので、大きなパーティーも入っていたり家族連れがいたりして、初日はびっちりテーブルについてくれた店の人たちも、とても忙しそうだった。


このお店も基本的には家族経営で、私たちのテーブル担当だったイリスちゃんはシェフの姪っ子なんだそうだ。唯一血が繋がっていないのは、去年中学を出たばかりというウエイターの男の子で、この子は親戚がニューヨークのブルックリンでイタリアンレストランをやっているので、ゆくゆくはそこに行くために修行しているんだとか。
こんないいお店にいるんだから、アメリカになんて行かなくていいのにと思わなかったわけじゃないけど。ぜひこの味をアメリカに持ち込んでもらいたいものだ。

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