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北朝鮮の核危機(29) 北のねらいは何か
持田直武 国際ニュース分析

2005年4月18日 持田直武

北朝鮮が朝鮮半島非核化について声明を発表。これまでの6カ国協議は、北朝鮮から一方的に核を取り上げ、支配下に入れる「ギャングの論理」と批判。今後は、米朝が対等の立場で米の核の脅威を除去する軍縮の場にすべきだと、同協議の方針変更を要求した。ブッシュ政権はこの要求を無視。6カ国協議議長国の中国は4月中に予定していた胡錦涛国家主席の北朝鮮訪問を中止、不満を表明した。


・米と対等の立場で米の核の脅威除去を主張

 北朝鮮外務省は3月31日、朝鮮半島の非核化について「米国とその同盟国が広めている歪曲した見解に反論する」という声明を発表。これまでの6カ国協議は、北朝鮮から核兵器を一方的に取り上げ、自分の配下に入れる「ギャングの論理」と同じであると批判。関係国が「朝鮮半島の非核化を真剣に望むなら、6カ国協議の性格を変え、北朝鮮が核武装する原因となった米の核と戦争の脅威を朝鮮半島とその周辺から除去することを協議する場とするべきだ」と主張し、次のように述べている。

・米国とその同盟国は、北朝鮮の核兵器保有は地域の安定を脅かすと主張、その放棄が朝鮮半島の非核化をもたらすと主張しているが、これは事実関係を意図的にゆがめた見解である。
・北朝鮮が核兵器を保有することになったのは、米が朝鮮半島の内部と、その周辺で核の脅威を増大させているため、北朝鮮は核兵器を持たざるをえなかった。
・米国は、現在も韓国国内に戦術核兵器を貯蔵し、核搭載艦船の寄港、戦略爆撃機の駐留を続け、核攻撃演習を繰り返している。
・朝鮮半島非核化を実現するためには、これら核兵器と関連手段をすべて撤去し、北朝鮮と周辺関係国の信頼関係を構築することが必要である。
・しかし、ブッシュ政権は事実を歪曲し、北朝鮮の一方的な核放棄が非核化を実現すると主張し、米の核の脅威の存在を無視している。
・同政権はまた、北朝鮮がまず核放棄をすれば、関係国が集団で安全の保証と核放棄に対する報酬を与えるというが、それは先に武器を捨て、米の支配下に入るというギャングの論理と同じである。
・6カ国協議は、これまでのような「核凍結に対し、報酬を与えること」を協議する場ではなくなったのだ。
・北朝鮮は核保有国としてすべての資格を備えたのであり、6カ国協議は参加国が対等の立場で交渉する軍縮会議となるべきである。
・そして、朝鮮半島とその周辺に広がる米の核の脅威と核戦争の脅威を完全に除去することを協議する場に変えなければならない。


・北朝鮮は核兵器保持の方針に転換

北朝鮮が6カ国協議に対する立場を変え、米朝が対等の立場で協議する軍縮交渉を要求していることは、米の朝鮮問題専門家、セリグ・ハリソン氏が訪朝して北朝鮮高官と会談した際に確認している。ニューヨーク・タイムズによれば、同氏は平壌で4月初旬、金永南最高人民会議常任委員長や姜錫柱第一外務次官はじめ核問題を担当する北朝鮮要人と会談。その席で、北朝鮮側が「核開発計画を段階的に廃棄する」という従来の方針を転換し、「条件付きで核兵器生産を凍結することはありうる」との新方針を打ち出したことも確認した。あらたな生産を凍結するだけで、すでに生産した核兵器は保持するという方針である。

 ハリソン氏はまた、北朝鮮の要人との会談で「寧辺の核施設から使用済み核燃料棒8,000本を近く取り出し、再処理してプルトニウムを抽出する」との方針も聞いたという。北朝鮮は2002年の暮、当時保管中だった使用済み核燃料棒8,000本余りを再処理し、核弾頭6−8個分のプルトニウムを抽出したというのが、米情報機関の推定である。北朝鮮はこのとき、休止していた原子炉を再稼動しており、今度、取り出す8,000本はこの原子炉からとみられている。もし、再処理すれば、前回と同じ量のプルトニウムを抽出でき、核貯蔵庫は倍増することになる。

 北朝鮮は上記の外務省声明の冒頭、「恒久的な平和と安定を達成するため、朝鮮半島を非核化するという戦略目標は一貫して堅持している」と強調。この目標を達成するためにも、6カ国協議では、米朝が対等の立場で米の核の脅威除去を協議しなければならない」と主張している。しかし、ブッシュ政権がこのような軍縮協議に応じる可能性はまずない。北朝鮮はそれを十分承知した上で、米が軍縮に応じない以上、北朝鮮も核兵器を廃棄することはできないと主張する余地を残している。そして、万一譲歩が必要な場合でも、あたらしい核兵器の製造を凍結し、既存の核は維持することをねらっているのだろう。


・米は無視、中国は主席の訪朝を中止

 この北朝鮮の要求に対し、ブッシュ政権は「無条件で6カ国協議に出席するべきだ」と繰り返し主張、問題にしない姿勢を見せている。しかし、ニューヨーク・タイムズによれば、北朝鮮が6月までに6カ国協議に復帰しなければ、そのあとは一連の対応措置を取ることで、同協議の北朝鮮を除く5カ国、日米韓中ロがすでに非公式に合意したという。その措置の中には、北朝鮮が嫌う米韓合同演習の頻繁な実施、北朝鮮に対する偵察、情報収集活動の強化、麻薬や武器の密輸監視強化などが含まれるというのだ。

 一方、中国は公式には何も言わないが、北朝鮮の動きに不満を持っているのは間違いない。韓国の中央日報は4月14日、北京の外交消息筋の話として、中国が4月中に予定していた胡錦涛国家主席の訪朝を無期限延期したと伝えた。この訪朝は、去年4月に訪中した金正日総書記が要請したもので、中国側は今年初めには訪朝計画を確定していた。そして、中国側はこの訪朝実施に先立って3月22日から北朝鮮の朴奉珠首相を招いて協議したほか、4月2日からは核問題担当の姜錫柱第一外務次官を招いた。主席の訪朝中止は、その上で決まったもので、6カ国協議に対する北朝鮮の姿勢が原因であることは間違いないだろう。

 4月9日付けの北朝鮮の週刊誌「統一新報」は「米国の侵略シナリオが実行段階に差しかかった」と危機感を強調。「戦争を挑発する米帝の挑発活動が悪化すれば、悪化するほど、われわれは自衛的な核兵器庫を拡充してゆく」と伝えた。上記の外務省声明が外国向けの核兵器維持宣言だとすれば、メディアのそれは国内向けに核を放棄しないことを約束したものだろう。日米韓中ロが今後一致して圧力をかければ、北朝鮮は6カ国協議に復帰することがあるかもしれない。しかし、ブッシュ政権が描いているような平和的シナリオに沿って核放棄に応じることはもはやなくなったのだと思う。

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