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米中間選挙、波乱の様相
持田直武 国際ニュース分析

2006年10月15日 持田直武

米中間選挙の投票日まで残すところ3週間。共和党はイラク戦争、議員の同性愛スキャンダル、ブッシュ大統領の不人気の3大重荷を背負って苦戦。これに対し、民主党は終盤に入って急躍進、上下両院で過半数を奪い返しそうな勢いになった。北朝鮮の核実験が共和党の退勢に追い討ちをかける可能性もある。


・世論調査では民主党が急躍進

 改選される議席は、上院(定数100)の33議席、下院(定数435)は全議席。現在の配分は、上院が共和党55、民主党44、無所属1。下院は共和党230、民主党201、無所属1、欠員3。上院は、民主党が6議席を上乗せすれば、無所属議員が民主党系のため、指導権を握れる。下院では、民主党が過半数を奪うには、現有勢力に17議席の上乗せが必要。しかし、1ヶ月前までは、民主党にその力はないと見られていた。ところが、選挙終盤に入ってから、民主党が急躍進、場合によっては上下両院を制しかねない状況になった。

 ワシントン・ポストとABCニュースが9日発表した世論調査によれば、投票に行く手続きをした有権者の54%が民主党支持、一方の共和党支持は41%だった。ニューヨーク・タイムズとCBSの9日の調査でも、民主党支持が49%、共和党支持は35%と、米の代表的な2紙が揃って民主党有利の世論を伝えた。ただ、これら調査は全国の一般的な世論状況を表すもので、この数字が個々の選挙区に当て嵌まるわけではない。しかし、民主党がこの世論を足がかりにして、上下両院の過半数を奪い返すことは十分考えられる。

 理由は、イラク戦争への疑問、共和党議員の同性愛スキャンダルへの嫌悪、ブッシュ大統領はじめ共和党指導部への不満などが複合している。ワシントン・ポストの調査によれば、ブッシュ大統領の支持率は39%。同支持率は5月に33%の最低を記録したあと、9月に42%まで回復した。しかし、最近また低迷。特に、イラク戦争の不支持が増えて64%、支持は35%で過去最低になった。同紙のウッドワード記者が10月に入って、イラク戦争を批判する著書「State of Denial」を刊行、ブッシュ大統領を「嘘つき」と決め付けるに等しい批判を展開したのが響いている。


・同性愛スキャンダルも追い討ち

 苦戦の共和党に追い討ちをかけているのが、議員の同性愛スキャンダル。ABCテレビが9月28日夜のメイン・ニュースで暴露した。内容は、フロリダ州選出のフォーリー共和党下院議員が議会で働くページ(小間使いの少年)たち宛に淫らな内容のEメールを長年にわたって送っていたというもの。同テレビは、証拠のEメールを示して追求した。これに対し、同議員は弁解もせずに翌日、議員を辞職、アルコール中毒の治療のためと称して入院してしまった。

 これだけなら、前例もないわけでもなかった。1983年、共和党のクレーン下院議員と民主党のスタッズ下院議員がページたちと不適切な関係にあったことが露見。(クレーン議員は少女のページが相手、スタッズ議員は少年のページ)。クレーン議員は謝罪して譴責処分を受けた。しかし、スタッズ議員は合意の上の行為で、違法ではないと主張。さらに、同議員は同性愛を差別するべきではないとの持論を展開して反撃に出た。翌年の選挙では、謝罪したクレーン議員は落選。反撃したスタッズ議員は再選を果たし、それから12年間も議席を維持した。

 ところで、フォーリー議員の場合、矛先は意外な方向に飛び火する。ハスタート下院議長(共和党)が不祥事を知りながら握りつぶした疑いが浮上したのだ。フォーリー議員は当選6回のベテランで、独身。過去にも、酔ってページたちの寮に侵入したなどの噂があった。今回も、同議員周辺の関係者が淫らなメールに気付いて、ハスタート議長に報告したという。しかし、議長は行動を起こさなかった。新聞やテレビが「議長は少年を護るより、共和党議員を護ることに汲汲としている」と報道。共和党の支持率低下に拍車をかけた。


・民主党が両院の過半数を取り戻すか

 選挙年の10月には、投票に影響する「オクトーバー・サプライズ」が起きることが多い。今年は、北朝鮮の核実験か、まだ不明だが、ブッシュ大統領の北朝鮮政策が改めて問われ始めたことは間違いない。同大統領は11日、ホワイトハウスで記者会見したが、記者の関心は北朝鮮の核実験に集中。質問の1つは、同大統領が「北朝鮮の核保有は許さない」と断言しながら、核実験を阻止できなかった責任についてだった。だが、同大統領の答は「北朝鮮は、私が大統領になる前から核開発を進めていた」という焦点を外したものだった。

 また、問題解決の方法として、「北朝鮮が主張する米朝2カ国間協議に応じるべきではないか」との質問に対し、ブッシュ大統領は「2国間協議で94年の枠組み合意を結んだが、北朝鮮は合意を守らなかった」と述べ、同じ失敗をするべきではないという従来からの主張を展開。さらに追求されると、「ブッシュ政権を単独行動主義だと批判する一方で、北朝鮮とは単独で交渉するべきだという」と皮肉を交えて回答。問題の本質を避ける姿勢が、政策の手詰まりを窺わせた。

 選挙戦でも、民主党はブッシュ政権のイラク戦争偏重が、北朝鮮の核実験を許したと主張し、攻勢を強めている。上記ワシントン・ポストの世論調査では、ブッシュ大統領のイラク政策を支持する意見は35%と過去最低、不支持が64%に上昇した。民主党はこの不支持層に食い込む戦術なのだ。ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズはじめ各種世論調査によれば、有権者の動きは民主党のほうが活発、投票に必ず行くと答える民主党員が多いという。この動きが続けば、民主党が94年に失った上下両院の過半数を取り返すこともあるかもしれない。


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