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イラク泥沼化
持田直武 国際ニュース分析

2006年10月1日 持田直武

米情報機関が「イラク戦争は国際テロの支持者を増やす」と分析した。しかし、ブッシュ大統領は「イラク戦争がテロを防ぎ、米国はより安全になった」という主張を変えない。イラク戦争の正当化を図る詭弁だ。イラクの現実は、宗派対立で内戦の一歩手前。駐留米軍は縮小計画を棚上げし、むしろ兵力を増派せざるを得なくなった。中間選挙を控え、悪材料ばかりだが、選挙には勝つ目もあるという。


・ブッシュ大統領の苦しい詭弁

 ブッシュ政権は26日、イラク戦争について分析した情報機関の秘密報告書の一部を異例の公開に踏み切った。報告書が「イラク戦争はイスラム社会の恨みを買い、国際テロの支持者を増やしている」と分析。公開前、これが一部メディアに漏れ、同政権のイラク政策に対する批判が加熱した。このため、同政権も一部公開せざるをえなくなった。だが、公開によって、批判は高まりこそすれ、静まる気配はない。

 ブッシュ大統領は同日、アフガニスタンのカルザイ大統領と会談、このあとの記者会見で、記者の1人が次のような質問をした。「報告書は『イラク戦争が国際テロの支持者を増やしている』と分析したが、大統領は『イラク戦争が米国をより安全にした』と主張している、なぜか」。これに対し、ブッシュ大統領は「イラク戦争は間違いだったと言う人がいるが、間違いではない。米国人に危害を加えようとする者を攻撃することが、米国を安全にしない筈はない」と答えた。

 確かに、ブッシュ政権が、米国に危害を加えようとする国際テロ勢力を攻撃するのは、間違いではない。しかし、この論理をイラク戦争に当てはめるのは詭弁である。イラクで、米軍が戦っている主要な相手は、国際テロ勢力ではない。しかし、ブッシュ大統領は「テロリストたちの目標は、イラクに芽生えたばかりの民主主義の芽を摘み取ることにある」とも主張。イラク戦争は、テロとの戦い、さらに民主主義を守るための戦いと論理を飛躍させる。


・ブッシュは「嘘つき」

 このブッシュ大統領の主張に対し、世論は距離を置いていることも事実だ。9月28日のCNN(電子版)によれば、「イラクの現状は内戦か」との質問に対し、「イエス」という答が65%、「ノー」は29%だった。これは「イラク戦争はテロとの戦い」というブッシュ大統領の主張を支持しない国民が3分の2もいることを示している。ロサンゼルス・タイムズが4月に実施した調査でも、「イラクは内戦」という答が56%。「内戦ではない」は33%だった。国民が、イラク戦争に対するブッシュ政権の説明を信じなくなっているのだ。

 10月2日には、ワシントン・ポスト紙のウッドワード記者がこの問題に関連する著書「State of Denial」を出版、批判に追い討ちをかけることになった。同記者は、イラク戦争の内幕を描く著書2冊をこれまでに出版、ブッシュ政策の宣伝役と揶揄されたこともあった。しかし、新しい著書は、同紙のコラムニスト、フルームキン氏によれば、「ブッシュ大統領を『嘘つき』と呼ぶに等しい内容」という。中間選挙を1ヶ月後に控え、論争の火種が増えることは間違いない。

 ウッドワード記者は出版を前に28日、CBSテレビのインタビューに応じ、ブッシュ政権が「事実を隠している」と具体的な例を挙げて主張した。それによれば、国防総省は「イラクの状況は好転している」と説明するが、実際には「米軍への攻撃は15分間に1回の割合で起きている。そして、米情報機関は「07年にはさらに悪化する」と分析しているが、ブッシュ政権はこれらの情報には「極秘」のスタンプを押し、公表を差し止めているという。


・それでも中間選挙を制する可能性も

 イラク情勢の悪化は、ブッシュ政権が駐留米軍の縮小計画を棚上げしたことでも推測されていた。米軍の総兵力は現在14万4,000人。9月20日の米中央軍アビザイド司令官の説明によれば、この兵力を来年春まで維持するほか、場合によっては、一部部隊の帰国を延期して増派もする方針という。6月の縮小計画では、米軍は中間選挙が近づく9月から戦闘部隊2個旅団を含む約7,000人がまず撤退の予定だったが、治安の悪化で、むしろ増派せざるをえなくなった。

 国連のアナン事務総長は9月初旬中東諸国を歴訪したあとの記者会見で、「中東アラブ諸国の指導者にとってイラクは大災難になっている」と語った。また、同事務総長は「アラブ諸国は、この災難をもたらした米国は、これを解決するまでイラクを去るべきではないと考えている」とも述べた。米軍が撤退すれば、イラクのさらなる混乱は不可避、周辺諸国にも飛び火すると警戒しているのだ。サウジアラビアのオバイド国家安保研究所長は28日、同国がイラクとの国境900キロに塀を立て、侵入者を防ぐ計画を推進していることを明らかにした。

 中間選挙を1ヵ月後に控え、共和党には悪材料ばかりだが、それでも同党が上下両院で過半数を維持する見通しもある。改選は上院100人のうち33人、下院は435人全員。上院は民主党が現職に6人を上乗せすれば、過半数を制する。接戦は約6州。現状では、民主党が接戦州すべてで勝つのは難しいという。下院も選挙の焦点は地元の問題が多く、組織に乗る現職有利、イラクは論点にほとんどならない。世論調査では、イラク政策批判が圧倒的だが、選挙は共和党の組織と資金が勝つということになりそうだ。


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