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北朝鮮の核実験と制裁
持田直武 国際ニュース分析

2006年10月22日 持田直武

北朝鮮に対する制裁が始まった。金正日総書記は中国の唐家セン国務委員に実験の自粛など柔軟姿勢を見せたが、一方では外務省声明で、北朝鮮を「威厳ある核保有国」と位置づけ、「核保有国として世界の核削減と廃絶に取り組む」と主張している。米など既存の核保有国が核放棄をしない限り、北朝鮮も放棄しないとの意思表示のようだ。制裁拡大の中、北朝鮮がこの主張を貫けるか、金正日総書記の正念場である。


・北朝鮮の一方的核放棄はない

 国連安保理の決議は、核開発に関係のある北朝鮮のヒト、モノ、カネを国際社会から切り離す措置の第一弾である。北朝鮮が核放棄に応じなければ、第二弾、第三弾の追加措置も警告している。だが、北朝鮮は決議を拒否。17日には外務省声明を発表して、安保理決議は「米の扇動の産物」と非難。さらに「我が共和国が威厳ある核保有国になった今、圧力や脅迫に屈するような馬鹿な真似はしない」と述べ、制裁に対する強い対決姿勢を示した。

 同声明はまた、北朝鮮の核兵器開発は「米国の核戦争の脅威から国家主権と国民を守るため、やむなく核拡散防止条約を脱退して実施したもので、正当な行為」と主張。その上で、「我々は責任ある核保有国として、世界の核削減と廃絶を実現するため、あらゆる努力をする」と強調している。世界の核削減と廃絶を実現するというのは、米はじめ世界の核保有国が自らの核の削減と廃絶をすることであり、その時、北朝鮮も核放棄をするということを意味している。

 北朝鮮は去年2月の核保有宣言の1ヵ月後、外務省が出したメモランダムでも、対等の立場で軍縮をするという主張を展開した。同メモは「北朝鮮は核保有国としてすべての資格を備えた」と宣言。従来の6カ国協議は「北朝鮮の核放棄に対し、報酬を与えることを協議する場」として拒否。代わりに「参加国が対等の立場で参加する軍縮会議を開き、朝鮮半島と周辺に展開する米の核の脅威を除去することを協議するべきだ」と主張した。今回の外務省声明は6カ国協議には触れていないが、拒否する姿勢は変えていないと見られる。


・唐国務委員の訪朝は期待はずれか、制裁拡大

 この北朝鮮の主張に対し、14日の国連安保理決議は、北朝鮮の核開発の正当性を否定。北朝鮮に対して改めて核の放棄と6カ国協議への復帰を要求した。北朝鮮が応じなければ、さらなる制裁強化を検討することも決めた。金正日総書記は19日、訪朝した中国の唐家セン国務委員と会談、条件付きで6カ国協議に応じる姿勢を見せたとも伝えられたが、詳しいことはわかっていない。中国が会談内容を伏せていることから見て、期待通りでなかった可能性もある。この会談後、中国がそれまで慎重だった制裁措置をむしろ強めていると見られることも、それを裏付けている。

 ウオールストリート・ジャーナルのアジア版が20日報じたところによれば、中国銀行や中国建設銀行など4大国営銀行がすでに北朝鮮との金融取引を中断。AP通信によれば、英国系のHSBC銀行支店なども中断、さらに拡大する動きがあるという。北朝鮮向け輸出の窓口、丹東市では、この金融取引中断の影響で物資の動きが減少、国境越えトラックの動きも少なくなった。また、外国の航空会社として唯一北京〜平壌間の定期便だった中国の南方航空も運航を停止した。制裁によって利用客が減る見通しとなったことが影響している。

 このほか、海上にも制裁は波及してきた。米のメディアは19日、米情報機関が平壌南西の港を出港した北朝鮮船舶を現在追跡中と一斉に報じた。それによれば、この船舶が安保理決議で禁止した軍事品を積み込んで出港した疑いがあるという。同船は過去にも武器を輸送したことがあり、米情報機関が警戒していた。積荷の中に大量破壊兵器に関連する物資があれば、安保理決議によって海上検査の対象になる。米情報機関は今のところ海上検査は避け、船が港に入港するのを待って、停泊国が検査するよう手配するという。


・北朝鮮は核を選択するか、将来を選択するか

 制裁が拡大する中、北朝鮮がどう出るかが焦点になった。韓国では、安全保障状況に不安を感じる国民が78.6%に上った。この世論を背景に、韓国政府は安保理の制裁決議への参加にも慎重姿勢を隠さない。北朝鮮との共同事業である開城工業団地や金剛山観光開発を継続。国内の保守派からは金正日体制に資金を送るものと批判されている。しかし、北朝鮮が再三警告しているように、制裁に反発して報復に出た場合、真っ先に攻撃されるのは、韓国という不安があり、政府としてはこれを無視できないのだ。

 20日、ワシントンで開催した米韓軍事委員会では、万一に備え、核反撃作戦計画を作成することに合意した。在韓米軍は冷戦終結後の1991年、韓国に配備していた戦術核兵器を撤収。その後、核兵器で報復する作戦はなかった。しかし、北朝鮮が核実験をした結果、韓国が核攻撃を受ける可能性も現実になったため、核兵器で反撃する作戦計画を立てることになった。また、盧武鉉政権が自主国防の柱として計画していた戦時作戦統制権の韓国への移管も時期を改めて決めることになった。

 一方日米は、北朝鮮が6カ国協議に応じ、核放棄をしない限り、制裁強化を続けるとの厳しい姿勢を隠さない。安倍首相は国会で核放棄をしなければ「北朝鮮という国自体の生存条件も厳しい状況になる」と述べた。米の6カ国協議代表のヒル国務次官補が「北朝鮮は核を選択するか、将来を選択するか、どちらか1つしか道はない」と述べたのと同じだ。金正日総書記は唐家セン国務委員との会談で、将来を選択すると言わなかったことだけは間違いない。それで、済むかどうか、総書記にとって時間はあまりないと思われる。


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