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イラン核開発、米イランの対決へ
持田直武 国際ニュース分析

2006年4月10日 持田直武

イランが国連安保理の要求を無視、核開発の動きを止めない。ペルシャ湾沿いでは、米との対決を想定して大規模な軍事演習を展開、新型多弾頭ミサイルや水中ミサイルを発射して威力を誇示している。だが、安保理では中ロが制裁に強く反対、今後の結束も期待できない。結局、米が対決の前面に出ることになるだろう。


・強制力のない安保理声明の逆効果

 国連安保理は3月29日、イランに対し30日以内に核関連活動の全面停止を求める議長声明を採択した。だが、声明に強制力はない。イランのソルタニIAEA(国際原子力機関)代表は即座に拒否した。同国の核活動はNPT(核拡散防止条約)が認める平和利用で、停止する理由はないという。安保理では、米英仏が強い調子の声明を主張したが、中ロが反対し、牙のない声明しか出せなかった。イランが拒否しても、安保理には次に打つ手がないことは明らかだった。

 議長声明を出した翌日、安保理常任理事国の米英仏中ロ、それにドイツの6カ国外相はベルリンで会合。ライス国務長官が「イランに対する制裁」を打診したが、予想どおり中ロが強く反対。中国の李肇星外相は会談後の記者会見で、「中東をさらに混乱させるようなことは望まない」と主張。ロシアのラブロス外相は「この問題はIAEAの場で解決するべきだ」と述べ、問題をIAEAにもう一度戻し、交渉で解決するべきだと主張、米の孤立は明白になった。

 ブッシュ政権は3月16日公表した「国家安全保障戦略」で、イランを「単一国家として最大の脅威」と規定。核兵器保有を阻止するため、武力行使も含むすべての選択肢を検討するとの立場を表明した。しかし、イラクの混乱に足を取られ、イランと軍事的に事を構える余裕はないのも事実。また、3月2日インドと結んだ「原子力協力協定」が、「インドの核保有を認め、イランや北朝鮮に核開発の口実を与える」との批判が強まり、核外交の面でも苦しい。イランが勇気づく環境になったのだ。


・イランは米との対決を想定して軍事演習

 イランが核開発を進めるにあたって、最大の関門は米である。イラン軍は、その米との軍事対決を想定、3月末から1週間にわたって大規模な軍事演習を展開した。場所は、石油輸出ルートのペルシャ湾、参加兵力はイラン最精鋭の革命防衛隊1万7,000人。同部隊はこの演習で、新型多弾頭ミサイルや超高速水中ミサイルなどの実験に成功したと発表した。イランの言うことは信用できないとの意見もあるが、米が攻撃すれば、イランは多弾頭ミサイルや水中ミサイルでイスラエルやペルシャ湾の米艦船に報復するとのメッセージであるのは間違いない。

 イランの発表によれば、これらの兵器はすべて国産。このうち、新型多弾頭ミサイルは複数の弾頭を装備しているほか、レーダーを避けるステルス性も備えているという。イスラエルが誇るミサイル防衛網アローを突破して、複数の目標を攻撃することを狙っているのだ。イラン軍は、従来から保有している射程2,000キロのシャハブ-3型ミサイルでも、イスラエルを攻撃できるが、新型ミサイルはより確実に多数の目標を攻撃できるとの誇示である。

 また、超高速水中ミサイルは、時速362キロ、つまり秒速100メートル。これは従来の魚雷のスピードの3−4倍も速く、このスピードの水中兵器を持つ国は現在ロシアだけという。軍事専門家は、米艦船がこの水中ミサイルの発射を感知しても、避けるのは無理だろうと見ている。米第5艦隊はバーレーンを母港とし、ホルムズ海峡はじめペルシャ湾の石油ルートを警戒している。水中ミサイルが発表どおりの性能なら、米艦船に大きな脅威になる。


・イランは地域の大国の立場を米に要求

 米との対決で、イランのもう1つの手段は、各地に張り巡らせた諜報網とシーア派武装組織である。ワシントン・ポストは4月2日、米がイランを攻撃すれば、イランは米本土はじめ世界各地で報復テロを行なうだろうと伝えた。同紙によれば、イランの諜報網は、各国駐在の大使館を足場に活動。79年のホメイニ革命以降、亡命中の反政府政治家数十人を暗殺したほか、94年アルゼンチンでユダヤ人コミュニティー・センターを爆破。96年には、サウジアラビアで米軍宿舎の爆破など、米とイスラエルの施設へテロ攻撃を繰り返したと疑われている。

 また、レバノンのシーア派組織ヒズボラは、議会に議席を持ち、閣僚も出す政党だが、その武装組織は70年半ばからのレバノン内戦当時、イラン諜報機関と連携して米大使館や海兵隊宿舎を自爆テロで攻撃。同時に米情報機関員を次々に誘拐、あるいは殺害して中東各地の米情報網に壊滅的打撃を与えた。現在も、イスラエルと武力対決を継続、米国務省テロ対策調整官クランプトン大使はワシントン・ポストに「ヒズボラはイランの手足と同じ、命令があればただちに出動する」と語っている。

 イラン革命防衛隊のサファビ司令官は5日の国営テレビで、米に対し「制裁や軍事的脅迫は米国の利益にならない」と強調、それよりも「イランを地域の大国(A Great Regional Power)として認めよ」と要求した。テレビで各種新型兵器の実験を誇示したあとの要求だった。ワシントンでは、ブッシュ政権が対インド原子力協定でインドの核兵器保有を事実上公認したと言われている時である。同司令官の発言は、イランにも同じ立場を認めよと迫ったものと見てよいだろう。


・米が前面に出てイランと対決へ

 米のボルトン国連大使は6日、記者団に対し「国連安保理に期待できない」と述べ、「国連に代わるもので問題の解決を目指す」と主張した。イラク戦争の「有志連合」と同じような組織結成の動きがあることを指している。7日のロサンゼルス・タイムズによれば、今回、参加を検討しているのは、米のほか、フランス、イギリス、ドイツ。各国のうち、フランスがもっとも熱心、イギリスは慎重、ドイツは脱落の可能性もあるという。一方、ロシア、中国は参加しない。イランとの石油契約や貿易の有無が各国の立場に反映している。

 ブッシュ大統領は、武力行使を含め全選択肢を検討するとの立場だが、同紙によれば、政権幹部は「武力行使は非現実的」と考えているという。ボルトン大使は、安全保障や経済など各面からの圧力を検討すると述べ、PSI(大量破壊兵器拡散防止構想)や貿易、投資規制などの併用を示唆した。また、下院が現在審議中の「イラン自由支援法」が成立すれば、これも使うことになると見られている。同法は、イランに投資する企業に自動的に制裁を発動する規定があり、アザデガン油田の開発にあたる日本の国際石油開発などがこれに触れる恐れも出る。

 ブッシュ政権はこれまで、イランとは直接交渉しというホメイニ革命以来の立場を貫き、英仏独のEU3国が交渉役だった。しかし、この連携作戦も行き詰まり、EU3国は米に対し直接イランと交渉するよう要求している。今のところ、米はイラク問題に限ってイランと交渉することを決めたが、いずれ核問題でも交渉せざるを得なくなる。安保理が役割を果たせず、EU3国も結果を出せず、米も動かないとなれば、イスラエルが不安に駆られ、単独行動に出かねないからだ。結局、米が軍事面も視野に入れつつ、イランと対決することになるだろう。


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