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北朝鮮制裁強化のねらい
持田直武 国際ニュース分析

2006年9月24日 持田直武

日本が北朝鮮に対する追加制裁を実施した。オーストラリアが続き、米も北朝鮮船舶の臨検などを含む大規模な制裁をまもなく打ち出すという。制裁によって、北朝鮮を6カ国協議に誘い出すことができるのか。それとも、追い詰め、暴発に追いやるか。岐路にさしかかったようだ。


・制裁拡大の動き止まらず

 日本政府は19日、国連安保理で可決した北朝鮮非難決議に基づく制裁として、スイスに本社があるコハス社や平壌の烽火病院など15団体と1個人の金融資産を事実上凍結した。オーストラリア政府も同日、12団体と1個人に対し、同様の制裁を実施した。これら団体と個人が北朝鮮の大量破壊兵器開発に関係しているという理由だ。米もすでに12団体と1個人に対する制裁を実施しており、日米豪3国が足並みを揃えた。今後、これら団体と個人が3国の金融機関を使って預金の引き出しや送金を行うことを禁止し、資産を事実上凍結する。

 日本はすでに7月5日、北朝鮮がミサイルを発射した直後、万景峰号の半年間の入港禁止、チャーター便の乗り入れ禁止、北朝鮮政府職員の入国禁止などの制裁をしており、今回はその追加措置。今後も北朝鮮が安保理決議に従わず、6カ国協議にも復帰しない場合、さらなる追加制裁を発動する予定。その対象として、万景峰号以外の北朝鮮船舶の入港禁止のほか、武器転用を疑われるハイテク製品の輸出をすべて許可制にして事実上禁止することなども検討している。

 一方、米も今後北朝鮮船舶に対する臨検などを含む追加制裁を検討中という。これに関連して、韓国の中央日報は、米国務省の関係者が18日、ワシントン駐在の韓国特派員団に対し、北朝鮮制裁を「94年の米朝枠組み合意以前の状態に戻す」と語ったと伝えた。米はクリントン政権時代、北朝鮮が核放棄を約束した94年の枠組み合意と、99年のミサイル発射凍結の約束のあと、経済制裁を段階的に解除。エネルギー支援や金融システムへのアクセス、船舶の寄港などを原則として認めた。ブッシュ政権はこれらをすべて取り消す計画というのだ。


・北朝鮮は追い詰められるか

 この日米などの動きに対し、北朝鮮は金正日体制の転覆をねらうものとの警戒心を隠さない。金永南最高人民会議常任委員長は16日、ハバナで開かれた非同盟諸国会議で演説し、「米は一方的な制裁で、状況を予測できない方向に追い込んでいる」と非難。さらに「われわれは核兵器を持つ必要はないが、今の状況では、抑止力として核兵器を持つ以外に選択肢はない」と主張した。また、北朝鮮の中央通信も16日、「米は、我が国の権威に泥を塗って、抹殺する積もりだ」と主張した。制裁が金正日体制を痛撃していることを認めたとも受け取れる主張である。

 北朝鮮が金融制裁に困惑していることは確かで、それを示す動きもある。米の金融制裁は昨年9月、マカオのバンコ・デルタ・アジア銀行から始まったが、その直後から北朝鮮は韓国と共同開発している開城工業団地内の韓国ウリ銀行支店に借名口座の開設を要求。同銀行は、借名口座は違法として断ったが、その後さまざまな手段を凝らし、これまでに4つの口座を開設したことがわかった。今のところ、これら口座がどう使われたのかはわかっていないが、北朝鮮が海外の口座を凍結され、苦肉の策として開城工業団地の銀行に目をつけたようだ。

 また、口座の凍結が外貨不足を起こしていることを示す情報もある。20日の中央日報は、北朝鮮が国際保険会社に対し、巨大事故4件の保険金を受け取るため事故の内容を詳しく報告したと伝えた。事故は昨年4月元山―興南間の旅客船の沈没事故、咸境道で起きた2件の列車事故、民間ヘリの墜落事故の4件。旅客船の沈没事故では、100人以上の乗客が死亡、保険金は数百万ドルと推定されている。北朝鮮は、イギリス、ロシアの保険会社調査員が事故現場に入るのを認めたが、このように巨大事故の詳細を西側に公開するのは初めてだという。


・戦争の危険を指摘する声も増える

 米のカーター元大統領は17日、CNNテレビで、米が圧力を加え続ければ、北朝鮮は「韓国を攻撃する可能性がある」との見解を表明した。同元大統領は94年の核危機の際、訪朝して金日成主席と会談、米朝衝突の危機を回避し、枠組み合意成立に道を開いた。この日のインタビューで、同元大統領は当時を回想し、「米が北朝鮮を追い詰めれば、金日成主席は韓国を攻撃すると確信していた」と述べ、さらに「今も北朝鮮はそうする可能性がある」と強調した。

 カーター元大統領はまた、この訪朝前、在韓米軍のラック司令官から「北朝鮮が攻撃に出た場合、一夜にして100万人以上の市民が命を落とす」と聞いたことも紹介、現在の状況も同じと強調した。韓国内にも、危機意識は広がっている。22日の中央日報の世論調査によれば、「北朝鮮は戦争を挑発する可能性が高い」との答が57%。去年より15%も増えた。また、統一についても、20年以内に実現するという答が32%で、去年より22%も減った。制裁強化で危機感が高まり、一時の楽観論が影を潜めたことは明らかだった。

 盧武鉉大統領は14日のブッシュ大統領との会談で、米が制裁強化の構えを見せているのに対し、「今は制裁強化を話す段階ではない」と真っ向から反対した。盧武鉉大統領はまた、前日ポールソン財務長官と会談した際、米がマカオのバンコ・デルタ・アジア銀行に対して行っている調査を早く終了するよう要求したという。調査を終了し、同銀行に対する制裁措置を解除しなければ、北朝鮮は6カ国協議に復帰しないという理由からだ。韓国内には、この盧武鉉大統領の姿勢を北朝鮮寄りとして批判する意見も強い。しかし、この同大統領の姿勢には、制裁で北朝鮮の暴発を招くことを懸念する世論が反映していることも間違いない。


・暴発か6カ国協議かの岐路

 韓国が制裁反対にまわった結果、6カ国協議は制裁反対の中ロ韓、推進の日米に分裂した。各国とも、北朝鮮の6カ国協議復帰を促すことでは一致しているが、それを達成する方法で意見が分かれた。一方、北朝鮮は制裁解除を6カ国協議復帰の条件としているが、米は北朝鮮が協議に復帰しても、金融制裁を解除するとは限らないと主張している。むしろ、金融制裁の予想以上の効果を見て、北朝鮮をさらに追い詰めかねない気配さえある。追い詰められた北朝鮮が、金融制裁下でも6カ国協議に復帰するか、それともカーター元大統領の予見するように暴発し、韓国を攻撃することになるのか、岐路にさしかかったようだ。


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