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朝鮮戦争の終戦宣言の可能性
持田直武 国際ニュース分析

2007年10月14日 持田直武

朝鮮半島情勢が動き出した。北朝鮮が寧辺の核施設を無能力化する作業を開始。米国務省はテロ支援国リストから北朝鮮を削除するための手続きを始めた。並行して、米国と韓国は連携して朝鮮戦争の関係国による首脳会談を開催して終戦宣言をする計画を進めている。ブッシュ、盧武鉉両大統領が任期切れに直面して荒仕事に手を付けた感がないでもない。


・ブッシュ大統領のシナリオが動く

 ブッシュ大統領は9日、盧武鉉大統領に電話し、先の南北首脳会談の結果について20分間話し合った。大統領府の千皓宣報道官によれば、盧武鉉大統領はこの電話で、「金正日総書記の非核化に向けた意思を確認した」と強調した。また「朝鮮戦争の当事国が首脳会談を開いて終戦宣言をすることで同総書記と合意した」ことも伝えた。これに対し、ブッシュ大統領は「南北首脳会談の結果は、これまでの米韓首脳間で進めてきた協議の方針と一致する」と述べ、歓迎したという。

 ブッシュ大統領と盧武鉉大統領は昨年11月のハノイのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)と今年9月のシドニーの同会議の際に会談し、北朝鮮が核開発を完全に放棄することを条件に、これまでの対決姿勢を転換、関係正常化を目指すことで合意した。その中の1つが、首脳会談を開いて終戦宣言をする案で、盧武鉉大統領が今回の南北首脳会談で金正日総書記に説明した。同総書記がこれに同意したことで、ブッシュ大統領が描いたシナリオが動き出した。

 中でも、韓国の動きが積極的だった。朝鮮日報によれば、千英宇6ヶ国協議代表は8日の記者会見で、「終戦宣言は6ヶ国協議の代表が交渉を担当し、年内に交渉を開始する」との見通しを示した。韓国政府内には、交渉は年内にまとまり、年内の首脳会談開催も可能との見方もあった。これに対し、米のバーシュボウ駐韓大使は8日、「6ヶ国協議が順調に進行し、来年非核化への第3段階に入った時、初めて終戦宣言や米朝関係正常化の協議が出来る」と述べ、性急な期待を戒めた。


・ブッシュ政権内には慎重論も

 ブッシュ政権内には「金正日総書記の非核化に向けた意思」を疑う慎重論があることも間違いない。ブッシュ大統領と盧武鉉大統領が電話会談をした翌日の10日、ホワイトハウスのペリノ報道官は定例記者会見で、これに関連した記者の質問に答え、「北朝鮮が6ヶ国協議で合意した(非核化の)約束を確実に守ることが確認できた段階で、我々は初めて平和協定に向けての協議を開始する」と述べ、韓国政府の動きと対称的な慎重姿勢を示した。

 北朝鮮は9月末の6ヶ国協議で、年内に寧辺の核施設の無能力化と核計画の完全な申告をすると約束。11日からは、米の核問題専門家チームが訪朝して無能力化の準備を始めた。具体的な作業は、別のチームが訪朝して実施し、約45日間で終わる予定だ。また、核計画の申告も約束どおり年内に実施することは確実で、韓国政府関係者の間には、北朝鮮が申告の中に注目のウラン核開発計画はもちろん、抽出したプルトニウムも加えるという楽観的な見方も出ている。

 6ヶ国協議の合意では、米も並行して北朝鮮をテロ支援国と敵国通商法の対象から削除する措置を取らなければならない。米議会関係者によれば、テロ支援国リストから北朝鮮を年内に削除するには、11月16日までに議会に書類を提出する必要がある。このため国務省は5日から手続きを始めたが、年内に削除するかどうかについては言を左右にして、断定を避けている。この慎重姿勢は日本人拉致問題への配慮もあるが、同時にブッシュ政権内の強硬派を意識しているためと見て間違いない。


・尾を引くシリアへの核移転疑惑

 今回の北朝鮮との対話政策はライス国務長官とヒル国務次官補が推進しているが、チェイニー副大統領は不満だとみられていた。その対立が9月、イスラエルのシリア爆撃をめぐって露呈した。イスラエルは爆撃の理由として、北朝鮮からシリアに核技術の移転があったため、その施設を爆撃したと米に内々に説明。その際、核技術移転の証拠を米側担当者に示したという。シリアと北朝鮮は直ちに否定したが、事実とすれば、6ヶ国協議の合意を覆しかねないことになる。

 この事件をめぐって、ブッシュ政権内のチェイニー副大統領の強硬派とライス国務長官の対話派の対立が表面化した。10日のニューヨーク・タイムズによれば、チェイニー副大統領はじめ政権内の強硬派は、このイスラエル情報を信用できると見て、北朝鮮との対話政策を見直すべきだと主張した。これに対し、ライス国務長官はじめ政権内の対話派は、イスラエル情報には政策を変更するだけの価値はないと主張して対立。結局、ブッシュ大統領の裁断で対話継続が決まったという。

 今年春に始まった対話路線は、北朝鮮が核施設の無能力化の約束や、朝鮮戦争の終戦宣言、さらに首脳会談開催を計画する段階にまで進んだ。しかし、まだ水面下の動き次第で覆る恐れも秘めている。今の急テンポな動きは、任期切れに直面したブッシュ、盧武鉉両大統領が荒仕事に手を付けた感がないでもない。日本国内には、米韓両国の急テンポな動きを見て、船に乗り遅れるなと言わんばかりの動きもある。尻馬に乗って火傷をする場合があることも忘れないようにしたい。


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