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日米同盟の隙間風
持田直武 国際ニュース分析

2007年11月4日 持田直武

日米の間に隙間風が吹く事態が続いている。従軍慰安婦問題、海上自衛隊の洋上給油問題、そして北朝鮮をテロ支援国リストから削除する問題。いずれも日本の政治、安保感覚を刺激する問題で、成り行きによっては日米同盟に亀裂を生むことになる。


・従軍慰安婦決議が掻き立てた不協和音

 米国の政治が世界を実質的に動かす力を持つことは誰もが実感している。それが好ましいこともあれば、好ましくないこともある。従軍慰安婦決議は、日本にとって好ましくない例の1つだ。同決議案は、カリフォルニア州選出の日系3世マイク・ホンダ下院議員が提案。下院本会議が7月30日、賛成多数で可決した。同下院議員の選挙区には、韓国、朝鮮系有権者が多数居住。同議員はその輿望を担って決議案を提出した。民主主義国家としては当然のことかもしれない。

 だが、米議会が決議すれば、問題はそれだけでは済まなくなる。決議は冒頭で「第二次世界大戦中、日本政府は日本軍兵士の性的奴隷とする目的で、若い女性を慰安婦として集める権限を軍部に正式に与えた」と断定。日本政府に対し「謝罪」を要求した。日本では、政府や軍の関与について意見が分れ、韓国、中国との関係が悪化している時、同盟国の米国議会が日本政府の関与を裁判官のように高飛車に断定。いわば、韓国や中国の肩を持ったのだ。日本国内に不満が募った。

 米議会がこのような決議をするのは、慰安婦問題だけではない。10月10日には、下院外交委員会が約90年前に起きたトルコのアルメニア人大量虐殺問題で同様の決議をした。カリフォルニア州選出のアダム・シフ議員が選挙区のアルメニア系有権者の要求に答えて決議案を提出。虐殺は、当時のオスマン・トルコ帝国が計画的に実施したという内容。トルコ政府が反発、米軍がトルコの空軍基地をイラク戦争の補給路として使うことを拒否する動きを示し、米・トルコ同盟に響きかねなくなった。


・日本は国連重視を名目に洋上給油を停止

 そんな時、日本が自衛艦によるインド洋上の給油作戦を停止した。従軍慰安婦問題と直接の関係はないが、作戦の停止は、日本が日米同盟の共同行動から離脱したことを意味する。離脱を主導した民主党の小沢代表が代わりに掲げたのが国連中心主義である。日本の歴代政権は、外交政策の柱として日米同盟と国連の2つを並列して挙げてきた。しかし、実際は日米同盟が中心で、国連は添え物だった。小沢代表は添え物の国連中心主義を外交の中心に据え、日米同盟に基づく作戦から離脱したことになる。

 ニューヨーク・タイムズは2日、この小沢代表の国連中心主義の持論を紹介。「同代表は今のアフガニスタンに自衛隊を派遣することは、平和憲法が禁止しているが、国連の傘のもとでならアフガニスタンでも、スーダンでも派遣できると主張している。そして、日本が米国を一方的に支持することに反対している」と伝えた。米の政治家の多くは、国連はロータリー・クラブと同じで、国際問題解決の当事者能力はないと考えている。彼らには、小沢代表の主張は理解できないに違いない。

 日本が自衛艦の撤収を決めた1日、ブッシュ大統領はワシントンの保守系シンクタンクで演説、「我々は今戦争中だ。それを忘れるな」と檄を飛ばした。議会が国家安全保障会議の構成員である新司法長官を承認しないことを非難したのだが、自衛艦の撤収にも向けられていると見ることもできそうだ。上記ニューヨーク・タイムズは「洋上給油は、ブッシュ大統領が進める世界規模のテロ戦争に政治的に貢献した」と評価した。日本は、その貢献を国連中心主義の名のもとに停止したことになる。


・拉致問題を積み残せば隙間風が強まる

 もう1つ、日本がブッシュ政権と対立しているのが、北朝鮮をテロ支援国リストから削除する問題だ。同問題は10月の6カ国協議合意で、北朝鮮が核施設を年内に無能力化するのと並行して、米もリストから削除すると決めている。年内に削除するには、ブッシュ政権は11月16日までに議会に通告しなければならない。これに対し、日本は拉致事件が解決していないことを理由に削除に強く反対、同政権は北朝鮮との約束と日本の反対の間で立往生している。

 もし、ブッシュ政権が北朝鮮をテロ支援国リストから削除しなれば、北朝鮮は無能力化を中止し、6ヶ国協議の合意は頓挫することが確実だ。ブッシュ政権はこれを避けるため、日朝両国に拉致問題の進展をはかるよう促しているが、見通しは立たない。これに加え、最近は北朝鮮がシリアに核技術を移転した疑いが浮上、議会の共和党保守派が、核協議の中止を要求している。ブッシュ政権はこのシリアの問題を公表しないが、今後の成り行き次第で、6ヶ国協議合意を覆す恐れもあるといわれる。

 ブッシュ大統領が北朝鮮の核問題解決を急ぐのは任期中の外交実績とするためであるのは間違いない。シリアへの核技術疑惑を公表しないのも、公にして交渉が遅れるのを恐れるからだろう。また、北朝鮮をテロ支援国リストから削除する問題も、日朝間の交渉に進展がなければ、ブッシュ政権は見切り発車し、核交渉を進めると見るべきである。進展を待って、核交渉が中断する事態を許すはずがないからだ。しかし、見切り発車をして、拉致問題を積み残すようなことをすれば、日米間の隙間風は一層強まるのは疑いようがない。


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