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米初の女性大統領は誕生するか
持田直武 国際ニュース分析

2007年1月28日 持田直武

ヒラリー・クリントン上院議員が大統領選挙に名乗りをあげた。同議員は知名度抜群、選挙資金につながる人脈も豊富、経験豊かなスタッフも確保している。だが、それだけでは勝てない。男社会の偏見や中傷に負けず、政敵が仕掛ける罠に落ちない知恵も必要だ。投票日までまだ1年9ヶ月もあるが、争いはすでに始まった。


・クリントン議員が支持率でリード

 米次期大統領選挙の投票日は08年11月4日。また、民主、共和両党の党候補を決める予備選挙と党員集会を08年1月から6月まで全国50州で実施する。それを目指し、両党の主だった候補はすでに選挙戦に入った。ワシントン・ポストとABCニュースの世論調査(1月16日−20日)によれば、両党の上位2人の支持率は以下のようになっている。

 民主党 クリントン上院議員       41%
     オバマ上院議員         17%
 共和党 ジュリアーニ前ニューヨーク市長 34%
     マケイン上院議員        27%
		  
また、大統領選挙を今実施したと仮定した場合の上記4人の支持率は次のようになる。
 民主党         共和党
 クリントン 49% 対 ジュリアーニ 47%
 クリントン 50% 対 マケイン   45%
 オバマ   45% 対 ジュリアーニ 49%
 オバマ   47% 対 マケイン   45%
  

 クリントン上院議員がわずかの差だが、共和党の2人の候補を押さえて大統領当選に最も近い位置にいる。女性が大統領選挙に立候補した例は過去にもあるが、当選の期待が持てる例は初めてである。しかし、大統領選挙の一般投票までまだ1年9ヶ月もある。この間、選挙資金を集めながら、女性蔑視や中傷にめげず、政敵が仕掛けた罠にも落ちずに選挙戦を乗り切ることができるか、予断は禁物だ。


・選挙資金は候補1人で5億ドル

 日本では、選挙に勝つには、地盤(組織)、看板(知名度)、鞄(選挙資金)の3バンが必要と言われるが、米政界でもそれは同じだ。この3バンで、クリントン上院議員はほかの誰よりも恵まれている。地盤(組織)は、夫のクリントン前大統領時代の組織を引き継いだ。そして、選挙対策本部長には、民主党全国委員会のマコーリッフ前委員長が就任する予定で、党の全国組織を握ることになる。また、前回大統領選挙の民主党候補ケリー上院議員が24日出馬を断念し、そのスタッフの多くがクリントン選対に移る見込みという。

 看板(知名度)の面でも、クリントン上院議員は飛び抜けている。ホワイトハウスのファースト・レディーとして8年間、ニューヨーク選出の上院議員として6年間、知名度は米国内に留まらず、国際的にも響いている。マスメディアも早くから大統領を狙う有力候補としてスポットライトを当てた。その結果、多くの支持者を生んだことも確かだが、同時に同議員のリベラルな面を嫌う「ヒラリー・ヘイター」と呼ばれる反発グループも生んだ。知名度は必ずしも味方でないことも事実で、今後の選挙戦で克服するべき課題の1つになる。

 もう1つの鞄(選挙資金)でも、クリントン上院議員は一頭地を抜いている。08年選挙では、予備選挙に1億ドル、選挙全体で5億ドルが必要と言われる。同議員はこれをすべて献金でまかない、公的資金を辞退すると約束した。公的資金を受ければ、支出は予備選挙で4,500万ドル、一般選挙で7,500万ドルまでに制限される。献金集めに自信を持つ候補はこの制限を嫌い、公的資金は使わない。前回選挙では、共和党ブッシュ、民主党ケリーの両党候補が辞退、双方とも4億ドル余り使った。08年選挙で公的資金を辞退するのは、今のところクリントン上院議員だけである。


・落とし穴への警戒も必要

 選挙戦では、まず政策論争で勝たなければならない。当面の焦点は、泥沼のイラク戦争を終結に導く方策だ。特にクリントン上院議員は当選すれば、女性として初めて最高司令官として陸、海、空、海兵の4軍を指揮する立場に立つ。女性が軍を指揮することを好まない保守的な思考が米国にもないわけではない。同議員はそれを意識して、これまで2回、イラクとアフガニスタンを視察した。これから始まるディベートの場で、イラクをはじめ安全保障問題に如何なる見解を示すことが出来るかは、選挙結果を大きく左右する。

 また、選挙戦では、仕掛けられる落とし穴を避ける知恵も必要だ。クリントン、オバマの民主党両候補は年明け早々これに遭遇した。保守系雑誌インサイト(電子版)が1月15日の週から「オバマ上院議員は幼年期、ジャカルタでイスラム原理主義の学校マドラッサで反米教育を受けた。この情報はクリントン上院議員の事務所関係者が漏らした」とインターネットで流した。保守系のフォックス・テレビやニューヨーク・ポスト紙もこれを報道。イスラム原理主義者のテロに過敏な米国民には聞き捨てならないニュースだった。

 この週は、オバマ、クリントンの両上院議員が相次いで立候補を表明。全米がそのニュースに注目している時だった。そんな時、アフリカ系のオバマ議員の素性を疑い、クリントン議員と確執があるかのように伝えて、両者のイメージ・ダウンを狙った。このニュースは、CNNがジャカルタに特派員を送って調査、オバマ議員が通学した学校は公立の非宗教的学校だったことが判明、メディアの報道は収まった。しかし、民主党の両議員に対する強い反発があることは十分伝わった。クリントン上院議員が如何に3バンには恵まれていても、楽観できないのは言うまでもない。


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