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6カ国協議、合意の危うさ
持田直武 国際ニュース分析

2007年2月18日 持田直武

6カ国協議が朝鮮半島非核化の初期段階の措置で合意した。その1つは「北朝鮮が最終放棄を目標に寧辺の核施設の稼動を停止・封印し、IAEAの監視と検証を認めるなら、重油5万トンを提供する」という合意。ところが、北朝鮮の国営朝鮮中央通信(KCNA)は「核施設を一時停止すれば、重油100万トンを提供することで合意した」と伝えた。今後の多難さを予告するかのような報道である。


・先行き不安に満ちた核放棄への道順

 6カ国協議で、日本が目指す目標は、北朝鮮の核兵器、および核兵器計画の完全放棄、それに拉致問題解決の2つだ。この目標達成にあたって、今回の6カ国合意は初期段階の措置として次のような道順を示している。

 第1段階として、北朝鮮は今後60日以内に次の措置をとる。
1寧辺の核施設(再処理施設を含む)を最終放棄する目的で稼動を停止し、封印。
2その監視と検証のためIAEA(国際原子力機関)要員の復帰。
3すべての核計画の一覧表(抽出プルトニウムも含む)を6カ国協議参加国と協議。

 この北朝鮮の措置と並行して、協議参加国は次の措置をとる。
1重油5万トンに相当する緊急エネルギー支援を開始(日本は不参加)。
2日本は過去清算と懸案解決(拉致を含む)を基礎に北朝鮮と国交正常化交渉を開始。
3米は北朝鮮と国交正常化交渉を開始。

 これと並行して次の作業部会を設置、30日以内に開催する。
1朝鮮半島の非核化、2米朝国交正常化、3日朝国交正常化、4経済およびエネルギー協力、5北東アジアの安全保障メカニズム

 このあと、第2段階として、次の措置をとる。
1北朝鮮はすべての核計画の完全なリストを出し、核施設を無能力化する。
25カ国は重油95万トンに相当する支援を提供する(進展次第で日本も参加)。

 以上が初期段階の措置である。これによれば、北朝鮮が重油100万トンを受け取るためには、「寧辺の核施設を最終的に放棄する目的で稼動を停止し、IAEAの監視と検証を受けること。さらにすべての核計画の完全なリストを出し、核施設を無能力化」しなければならない。朝鮮中央通信が伝えた「核施設の一時停止」だけで重油100万トンが提供されるということはない。北朝鮮政府の主張を忠実に伝えることで知られる同通信がなぜこのような報道をしたのか、理由はわからないが、今後の交渉の先行きに不安を感じさせるのは否めない。


・第1段階の措置から難問の山

 この6カ国合意の初期段階の措置は、北朝鮮が主張してきた「北朝鮮の行動に対して相手側も行動で答える」という「同時行動原則」に基づいている。この原則に従って、北朝鮮が寧辺の核施設の稼動停止など第1段階の行動を取るのに対し、他の5カ国は重油5万トンを提供するほか、日米は北朝鮮と国交正常化交渉を開始する。第2段階では、北朝鮮がすべての核計画を提出、核施設を無能力化するのに対し、5カ国は重油95万トンを提供する。北朝鮮が1つの行動を起こすごとに5ヶ国側は援助をするという方式である。

 だが、それは協議が順調に進んだ場合で、膠着すればその限りではない。今度の場合、第1段階からその恐れがある。6カ国合意の第1段階では、北朝鮮は寧辺の核施設の稼動停止のほか、すべての核計画のリストを出して5カ国と協議することになっている。第一の関心は、北朝鮮がこのリストにウラン濃縮計画を含めるかどうかだ。同計画は、米が02年10月探知したとして追及、北朝鮮も当初認めたと言われたが、その後一貫して否定。この疑惑がきっかけで、6カ国協議が発足した。北朝鮮が今後も認めなければ、協議全体が膠着する可能性も否定できない。

 協議膠着の恐れは北朝鮮側に起因するものばかりではない、米にもある。米は第1段階の措置として北朝鮮と国交正常化交渉を始めるが、その際、北朝鮮をテロ支援国とする指定の解除を検討する。しかし、ブッシュ政権内では、エーブラムス大統領副補佐官を筆頭に反対意見が強く、政権内の調整難航は必至。また、北朝鮮をテロ支援国に指定し続ける背景には、日本人拉致事件もあり、その解決を差し置いて解除することにも問題がある。国交正常化には、指定解除は避けて通れないが、周囲の状況はそれを許すまで熟していないと言うほかない。


・北朝鮮の戦略的決断を占う目安

 今回の6カ国合意は、核兵器の廃棄に至るまでの道筋で合意したもので、核兵器廃棄に直接言及はしていない。しかし、第1段階で組織する作業部会には、朝鮮半島の非核化の部会がある。同部会で、05年9月の6カ国協議共同声明を実施する具体的な内容を協議し、策定することになる。同共同声明では、北朝鮮はすべての核兵器、および核計画を放棄することで合意しており、同部会で、北朝鮮はこの合意に基づいた対応を要求されることになる。それに対し、北朝鮮がどう出るかは、北朝鮮が核放棄の戦略的決断をしたかどうかを判断する目安になるだろう。

 核廃棄とともに日本が重視するのは拉致問題の解決だ。同問題は第1段階で開始する日朝国交正常化交渉の中で、不幸な過去の清算とともに取り上げる。日本政府は同問題が解決しない限り、支援には加わらない立場を表明。6カ国合意の重油支援にも加わらず、韓国などからは不満の声も出た。しかし、米は了解し、中国も来日した李肇星外相が16日安倍首相との会談で「日本の関心は完全に理解している。出来る限りの支援をしたい」と中国政府首脳として初めて拉致問題解決に支援を表明した。

 朝鮮半島を非核化し、地域を安定させるには、日米が北朝鮮との関係を改善することが不可欠である。それがなければ、北朝鮮が核兵器放棄の決断をすることもないだろう。拉致問題は、日本がその目標に向かって進むのを妨げる大きな壁である。李肇星外相の「支援したい」との発言は、中国もそれを認識していることを示している。日本が拉致問題にこだわると孤立するとの声もあるが、それも否定できないかも知れない。しかし、今は可能な限り、問題の解決を図る努力をする時だと思う。


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