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米大統領選挙、費用は天井知らず
持田直武 国際ニュース分析

2007年2月25日 持田直武

次期大統領候補者の献金集めが始まった。民主党の最有力候補ヒラリー・クリントン上院議員の目標額は5億ドル(約600億円)。共和党ジュリアーニ候補も同額。選挙法は支出の上限を決めているが、公的資金を使わず、有権者の献金か、自己資金で選挙をすれば支出制限はない。この結果、有力候補は公的資金を辞退して献金集めに奔走、支出は天井知らずになりそうだ。


・献金の多寡が勝敗を決める

 選挙でカネがモノを言うのはどこも同じ、米大統領選挙はその典型である。次期大統領の最有力候補、民主党のヒラリー・クリントン上院議員は目標額を5億ドル(約600億円)に設定。腕利きのバンドラー(Bundler、献金集金人)数百人を動員、派手な集金作戦を始めた。共和党の有力候補は、この面では行儀よさそうに見えるが、集金目標は同額というのがもっぱらの見方だ。民主、共和両党の候補2人だけで、最終的に10億ドルを使うことになる。前回選挙では、共和党ブッシュ、民主党ケリーの両候補はそれぞれ4億ドル余りを使ったと報告した。

 支出に制限がないわけでない。連邦選挙法によれば、候補者は来年1月から各州で始まる予備選挙と党員集会の費用として、有権者からの献金と公的資金を合わせ最高4,500万ドルまで、11月4日の一般投票までの運動費用として最高7,500万ドルまでの制限がある。ところが、公的資金を辞退し、献金や自己資金だけで選挙をすれば、この支出制限を受けない。1976年、この制度ができた時、議会は全面的制限を決めたが、最高裁判所が献金や自己資金で選挙をする場合の制限は、個人の政治的意見の表明を侵害し憲法違反と判決、現行のようになった。

 この結果、献金集めに長けた候補が有利になった。ブッシュ大統領は2000年の初当選以来、公的資金を使わない。前回選挙では、民主党のケリー候補も辞退。今回も民主党はクリントン上院議員、オバマ上院議員、エドワーズ上院議員の有力3候補が辞退。予備選挙では、3候補とも1億ドル余りを使うとの推定だ。これに対し、公的資金に頼る候補は4,500万ドルの支出制限があるほか、予備選挙段階で続けて2州で10%以下の得票しかない場合、その公的資金も打ち切られる。そのあと、献金に頼って選挙を続けたとしても勝ち目がないのは言うまでもない。


・献金パーティーは花盛り

 候補者への献金は、有権者個人からに限られ、企業や組合は献金できない。額は1人の候補に対し1回の選挙ごとに最高2,300ドル(約276,000円)まで。大統領選挙は、1月からの予備選挙と党員集会、それに11月の一般投票の2回の選挙に分かれている。各候補は当面、1月からの予備選挙と党員集会を対象に献金を集め、これに勝って党の候補になれば、さらに一般投票に向けて献金を集めることになる。CNNによれば、献金集めのトップを走るクリントン上院議員の場合、今年3月末までに1,500万ドル、年末までに7,500万ドルを集める計画という。

 この献金集めで欠かせないのが、有力支持者を招くパーティーであり、それを企画、演出する腕利きバンドラー(献金集金人)の確保だ。クリントン議員はすでにバンドラー250人を確保、3月末までに20回を越すパーティーを企画している。その1つ、3月21日のニューヨークのパーティーは、一般席1、000ドル、上席2,300ドル、特等席4,600ドルである。CNNによれば、クリントン議員に次いで民主党候補の2番手オバマ上院議員は2月20日、映画の都ハリウッドの一夜のパーティーで130万ドルの献金を集めた。

 献金集めではもう1つ、インターネットを使って一般から幅広く募金することも欠かせない。候補者やその支持団体が選挙用ホームページを開設。これを使って、候補者の名前入りTシャツや車のステッカーなどを売り、献金を呼びかける。パーティーに比べれば、献金額は100ドル、200ドルと小口が多いが、1票を持つ多数の有権者を確保することができる。前回選挙では一部候補が試みただけだったが、今回は候補が政策を訴えるビデオを流すなど新しい試みも加え、一般有権者の支持集めの手段として注目されるようになった。


・金権選挙の弊害の恐れも

 献金が増えれば、当然のことだが支出も増える。選対本部を組織、腕利きの選挙参謀(Handler) や献金集金人、広報専門家を雇い、各州に選対支部を置く。各候補は06年末までの選挙関連支出を連邦選挙管理委員会に提出したが、ワシントン・ポストによれば、民主党の有力候補はこれらスタッフの費用として平均66万ドルを支出したと報告した。前回選挙の同じ時期の2倍である。毎回、この時期、各候補は優秀な選挙参謀の引き抜き合戦を演じるが、今回はその契約金も膨張した。今後、選挙戦が本格化するに従ってテレビ・コマーシャルなどが増え、支出はうなぎ登りになる。

 これを是正しようとする動きもある。一部議員が06年、公的資金を増額し、献金に対抗できる額に改正する法案を提出した。1月から始まる予備選挙と党員集会の支出制限を最高1億5,000万ドルと従来の3倍、11月の一般投票には1億ドルと従来の1.3倍に上げる。支給時期も、これまでは予備選挙開始直前の1月からだったが、これを6ヶ月繰り上げて前年の7月からとする画期的提案だ。公的資金を辞退した候補が支出制限の120%を超えて支出した場合は、公的資金をそれに対抗して増やすという項目も加えた。だが、この法案は昨年の議会では成立を見送られ、次期大統領選挙には間に合わない。

 この結果、次期大統領選挙が史上空前の金権選挙になることは確実となった。それが弊害を生まないかという疑問も膨らんでいる。本来、献金は有権者が候補者を支持する証として与えるもの、従って献金を多く受ける候補は当選して当然と考えた。しかし、候補者が高額の契約金を払って腕利きのバンドラーを多数集め、献金を集めるとなると、本来の意味は薄れる。こうして当選した大統領の1人、クリントンは就任後、バンドラーをホワイトハウスのリンカーン記念部屋に1泊させたことが露見し、非難された。大口献金に見返りがあると疑っても不思議ではないのだ。


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