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米大統領選挙 オバマ Who ?
持田直武 国際ニュース分析

2007年5月6日 持田直武

民主党候補オバマ上院議員の支持率が上昇している。同候補は現在上院でただ1人のアフリカ系議員。ハーバード大学院卒の弁護士で45歳。イラク戦争反対を掲げ、ブッシュ政権に不満な有権者を惹きつけている。世論調査で、支持率がライバルのクリントン上院議員を上まわる場合もあり、鍔迫り合いを演じている。


・民主党のトップ・ランナーに浮上

 民主党の大統領候補指名争いでは、これまでクリントン上院議員が常にトップ、これをオバマ上院議員とエドワーズ前上院議員が追う展開が続いてきた。しかし、最近になってオバマ議員がクリントン議員をじりじりと追い上げ、ラスムセン・リポート社の最新調査で初めてトップになった。

 最近の3社の調査結果を紹介する。

・ラスムセン・リポート
 最新調査(4月23日―26日)     前回調査(4月16日ー19日) 
 オバマ   32%           クリントン 32%
 クリントン 30%           オバマ   32%

・NBC、ウオール・ストリート・ジャーナル
 最新調査(4月20日―23日)     前回調査(3月2日―5日)
 クリントン 36%           クリントン 40%
 オバマ   31%           オバマ   28%

・ USA Today、ギャラップ
 最新調査(4月13日―15日)     前回調査(4月2日―5日)
 クリントン 31%           クリントン 38%
 オバマ   26%           オバマ   19%
  



・反戦世論がオバマ議員の支持を広げる

 オバマ議員のセールス・ポイントはイラク戦争に最初から反対したことだ。クリントン議員とエドワーズ前議員は02年10月のイラク開戦決議を支持した。その後、エドワーズ前議員は、支持は間違いだったと謝罪した。しかし、クリントン議員は謝罪せず、反戦ムードの強い民主党支持者との間に壁を造ってしまった。これに対し、オバマ議員は最初から開戦決議に反対した。同議員は当時、イリノイ州の州議会議員。議会の演説でイラク攻撃を取り上げ「攻撃する理由もなければ、国際社会の支持もない。中東に火をつけるだけの愚かな行為。」と批判した。

 それから2年後の04年11月、オバマ議員は連邦議会上院に立候補して当選。そして今回、大統領選挙にも立候補した。新聞は、大統領に当選する可能性がある初めてのアフリカ系候補と書いた。アフリカ系大統領候補は84年と88年のジャクソン牧師はじめ先例は多い。しかし、立候補は公民権運動の一環としての色彩が強く、当選は考慮していなかった。これに対し、オバマ議員は米国の今の政治の焦点、イラク戦争の終結と医療制度改革を政策の中心に据えて選挙運動を展開し、当選の可能性がある本格候補と見られている。

 当選すれば、米国で初めてのアフリカ系大統領となる。実は、この「アフリカ系で初めて」という形容句は、これまでオバマ議員に何回とかく付けられた。90年、ハーバード大学院で法律研究誌「ハーバード・ロー・レビュー」の会長になった時、ニューヨーク・タイムズは「同誌の104年の歴史の中で、アフリカ系学生が会長になったのは初めて」と書いた。また、04年の民主党大会で、当時イリノイ州議会議員だったオバマ議員が大会の基調演説をした時、メディアは「アフリカ系州議会議員が基調演説をするのは初めて」と伝えた。


・父はケニヤ出身、母はアイルランド移民の子孫

 オバマ議員が傑出した才能に恵まれていることを示す逸話は多い。同時に、子供の頃から皮膚の色で苦しんだことを本人も隠さない。95年に出版した自叙伝で、同議員は子供の頃を回想し「父は周囲の人と同じではなかった。肌がタールのように黒く、母のミルクのような肌とまったく違っていた」と書いている。その父も母と別居、やがてケニヤに帰国。母はインドネシア人と再婚、オバマ少年は祖父母に引き取られる。10代の頃、アルコール、マリファナ、コカインに溺れたこともあった。世間の偏見と妥協できるようになるのは、大学に入ってからだという。

 最近、オバマ議員の母はアイルランド移民の子孫というニュースが流れた。1845年から51年にかけて、アイルランドがジャガイモの不作から大飢饉に見舞われ、約100万人が米国に移住した。オバマ議員の母の祖先はアイルランド中部のマネーゴールという村の靴職人だった。しかし、飢饉に追われ、先に移民した親戚を頼って1850年にニューヨークに着いたという。ニューヨークなど東部の都市には、アイルランド系住民が多く、選挙の重要な票田になる。このニュースによって、アイルランド系住民がオバマ議員に対する共感を抱いたとしても不思議ではない。

 自叙伝によれば、オバマ議員の父はケニヤのヤギを飼う農民の出身だった。母と離婚したあと、ハーバード大学で学んで帰国したが、自動車事故で亡くなった。オバマ議員が21歳、コロンビア大学の学生だった時だ。同議員が来年1月からの予備選挙と党員集会で勝って、民主党の大統領候補、さらに米国大統領の座を射止めることになれば、ケニヤの農民とアイルランドの靴職人の子孫の息子が米国の大統領ということになる。米国という移民の国でなければ、あり得ない話と言って間違いないだろう。


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