メインページへ戻る

6カ国協議 北朝鮮の戦略的決断
持田直武 国際ニュース分析

2007年7月23日 持田直武

北朝鮮が核施設の無能力化を年内に実施する案に待ったをかけた。ほかの6カ国協議参加国も同時に約束を実行するべきだとの理由だ。北朝鮮代表の金桂寛外務次官は核施設を解体するためには重油提供のほか、米の敵視政策の転換、軽水炉の提供も必要と主張。北朝鮮が核施設の無能力化の見返りに何をねらっているかを示唆した。


・核兵器計画を無能力化する条件

 今回の6カ国協議の焦点は、北朝鮮がすべての核計画の申告と核施設の無能力化を年内に実施するかどうかだった。協議開始に先立って、北朝鮮が核施設の稼動を停止したことで、年内の無能力化に応じるとの期待が高まった。しかし、北朝鮮は応じなかった。21日のワシントン・ポストによれば、米代表のヒル国務次官補はその理由について「北朝鮮が無能力化と同時に、ほかの協議参加国も重油提供のほか、外交関係の改善などの約束を実施するべきだと要求したためだった」と説明した。北朝鮮の無能力化だけを先行して実施することはできないというのだ。

 北朝鮮はかねてから、行動には行動で答える、いわゆる同時行動原則を主張、05年9月の共同声明にも書き込んだ。この原則に従って、北朝鮮が無能力化を年内に実施する場合、ほかの協議参加国も年内にそれに見合う措置を取るべきだと主張している。北朝鮮代表の金桂寛外務次官は21日帰国にあたって記者団から「すべての核計画の申告の中に核兵器が含まれるか」と質問されたのに対し「少し考えればわかるだろう。信頼が構築できるかどうか見てから考える」と答えた。米はじめ協議参加国が相応の見返りを実施し、信頼が構築されれば、考えるという意味である。

 その場合の見返りについて、金桂寛外務次官は「核施設を解体するには、米の敵視政策の転換や軽水炉の提供が必要だ。解決の基本は重油ではなく、敵視政策の転換だ」と主張した。核施設解体には、米の安全保障政策の転換が必要ということである。また、中国の新華社通信によれば、金次官は日本について「日本は北朝鮮の主権を侵害し、経済制裁に勝る圧迫を加えている。もう一歩踏み出せば、災禍が見舞うだろう」と語った。今回の6カ国協議で、日朝、米朝は8月末までに国交正常化交渉の作業部会開催を決めたが、前途多難と見なければならない。


・在韓米軍の撤退も条件の1つ

 6カ国協議の北朝鮮代表がこうした要求を続ける一方で、北朝鮮の人民軍板門店代表も13日声明を発表、在韓米軍の撤退を話し合う米朝と国連を交えた協議開催を要求した。同声明は、在韓米軍の駐留を決めた米韓相互援助条約は、すべての外国軍隊の撤退を決めた休戦協定を無視して調印した違法条約と主張。休戦協定60条に従って米朝と国連による会談を開催し、在韓米軍の撤退問題を解決するよう要求している。6カ国協議で金桂寛外務次官はじめ外務省当局者の主張と並行して、北朝鮮軍部も敵視政策の転換を要求する姿勢を示したものだ。

 北朝鮮は米の敵視政策として、テロ支援国の指定や対敵通商法による経済制裁、それに在韓米軍と韓国軍の合同軍事演習などを挙げ、中止を要求してきた。これに対し、ブッシュ大統領は06年11月、北朝鮮の核放棄を条件に朝鮮戦争の終結宣言をするとの新方針を表明。これに基づいて、米は6カ国協議で、テロ支援国の指定解除や対敵国通商法の解除問題を協議することに合意した。しかし、在韓米軍の撤退問題などには触れなかった。北朝鮮が今後も在韓米軍の撤退などを要求し続ければ、交渉は長引き、核施設の無能力化は年内にはとても実現しない。


・北朝鮮の戦略的決断とは

 米は北朝鮮に対し、戦略的決断をするべきだと説得してきた。リビアのように核兵器開発を放棄すれば、米はじめ国際社会との関係を改善することができて、国の安全も保障されると主張してきた。これに対する北朝鮮の答は今のところわからない。しかし、リビア方式に乗らないことだけは確かなようだ。北朝鮮はむしろ、行動対行動の同時行動原則を守り、米の敵視政策の一つひとつをねらって交渉を続けてゆくと見るほうがよさそうだ。そして、最後まで核兵器を維持しようとするだろう。これが北朝鮮の戦略的決断と言えるのかも知れない。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2007 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.