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米大統領選挙 金融危機でオバマ候補有利
持田直武 国際ニュース分析

2008年9月28日 持田直武

金融危機が深刻化、米国民の関心は経済問題に移った。テロの脅威より、失業の不安がより身近な問題となったのだ。安全保障に強いと評価されたマケイン候補の支持率が落ち、経済に強いというオバマ候補が浮上した。投票日まで残す所5週間、黒人大統領が誕生する期待は高いが、同時に黒人というだけで6%の得票が減るとの分析もあり、予断は許さない。


・裏目になったマケインの賭け

 マケイン候補は自らを「Maverick」 と称して憚らない。日本のメディアはこれを一匹狼と訳しているが、本来の意味は「はぐれ牛」だ。所有者の焼き印もなく、母牛からも離れて一匹で生きる牛である。行動が、出たとこ勝負になり、賭けになるのは止むを得ないのかも知れない。共和党大統領候補になっても、このマケインの性癖は変わるはずもない。最近の金融危機でも、同候補はこの性癖を遺憾なく露呈、下降気味の支持率にさらに拍車を掛けることになった。

 マケイン候補が大統領候補として金融危機対策に動くのは当然だ。同危機が1929年の大恐慌以来の世界的な混乱を起こす恐れがある以上、なお更である。しかし、同候補が取った行動には疑問があった。ブッシュ政権と議会が危機回避の金融安定化法案を協議中の24日、マケイン候補は突如選挙戦の中断を宣言した。そして、26日の大統領候補の討論会を延期し、両党の大統領候補がホワイトハウスでブッシュ大統領と危機回避策を協議するよう提案した。

 選挙より危機回避が優先するというのが、提案の理由だった。マケイン候補が危機回避のリーダーシップを発揮したとして選挙戦を有利にする狙いがあるのも明らかだった。一方、ブッシュ大統領は25日この提案を受け入れ、マケイン、オバマ両候補と議会指導者を招いて協議した。だが、結果は最悪だった。協議は、下院共和党指導者が金融安定化法案そのものに反対して決裂。リーダーシップ発揮の評価を狙ったマケイン候補の賭けは裏目に出た。


・経済問題ではオバマ候補の評価が上

 マケイン候補がこんな賭けに出たのは経済問題に弱いという評価を克服する狙いからだ。ワシントン・ポストとABCニュースが24日に発表した世論調査によれば、有権者の50%が大統領選挙にあたって経済問題、中でも職の安定を最優先に考えると答えている。そして、経済問題に関する支持率は、オバマ候補が53%で、マケイン候補の39%を大きくリードした。マケイン候補としては、経済分野でもリーダーシップを発揮できることを示して、この傾向に歯止めをかけようとしたのだ。

 ところが、マケイン候補が提案したホワイトハウスの協議で下院共和党指導部が叛旗を翻し、同候補の狙いははずれた。金融安定化法案は金融機関の救済に7000億ドルの公的資金を使う。下院共和党はこの資金投入に反対した。下院も11月4日の大統領選挙と同時に改選を迎えるが、選挙区では共和党の草の根支持者が税金で金融機関を救済することに反対だ。下院共和党指導部はこれを無視できない。結局、マケイン候補もこの問題の解決策はなく、リーダーシップも発揮できかった。

 マケイン候補はこれまでも選挙戦で幾つかの賭けをした。副大統領候補にペイリン女史を選んだのもその1つだ。同候補は全国的には無名だったが、保守的信念と実践が受け、選挙の顔になった。9月初めの共和党大会以降、マケイン候補の支持率上昇に貢献した。しかし、最近は政治経験や国際知識の不足など欠点も表面化、保守派のコラムニスト、ジョージ・ウィル氏など共和党の有力支持者が副大統領候補辞退を勧告している。ここでもマケイン候補の賭けが裏目に出ている。


・オバマ候補の課題は人種問題

 金融危機が深まるのに並行して、大統領選挙にも影響が現れている。上記のワシントン・ポストとABCの調査によれば、経済情勢が良いと考えている有権者は9%。この数字が一桁になったのは、1992年米国が冷戦後の産業転換期で、街に失業者があふれた時以来のことだ。また、米国が正しい方向に進んでいる考える有権者は14%。これは1973年のウオーターゲート事件以来の低さである。この2回とも、その後の選挙で共和党政権が敗北、民主党政権が誕生した。

 今回も、民主党オバマ政権が誕生する環境は十分ということになる。しかし、これまではオバマ候補はこの環境にふさわしい支持を得ていないという不満が民主党内には多かった。上記ワシントン・ポストとABCニュースはオバマ候補が今回の調査で初めて支持率52%、支持率43%のマケイン候補に9%と明確な差を付けた点を評価、大統領選挙の形が固まってきたとの結論を出した。このまま、オバマ候補が逃げ切る可能性があるとみているのだ。

 これ対し、AP通信は人種問題の調査結果を基に予断を許さないと分析している。それによれば、白人有権者の相当数が黒人に対しネガティブな感情を捨てていないこと。白人と黒人は人種差別そのものについても見方が違うことなどを指摘。オバマ候補は黒人であることで、大統領への道はより厳しく、差別が原因で得票は6%のマイナスを見込まなければならないとの結論を出した。前回選挙で、ブッシュ大統領と民主党ケリー候補の得票差が2.5%だったのをみれば、この6%が如何に重いかが分かる。


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