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北朝鮮は6カ国協議に戻るか
持田直武 国際ニュース分析

2009年10月11日 持田直武

金正日総書記が米朝対話を優先する姿勢を変えない。米との対話で核保有国の立場を確保するのが狙いだ。同総書記が温家宝首相との会談で6カ国協議にも応じるかのような発言をしたが、米朝対話を優先する姿勢を変えたわけではない。


・金正日総書記が6カ国協議に言及した背景

 金正日総書記は10月5日、平壌を訪問した中国の温家宝首相と会談した。朝鮮中央通信(KCNA)によれば、同総書記はこの席で、次のように述べた。「朝鮮半島非核化は金日成主席の遺訓であり、我々の目標である。我々と米国の敵対関係は、米朝2国間対話によって平和的関係に変えなければならない。我々はこの米朝対話の結果によっては、多国間対話をする用意がある。多国間対話には6カ国協議も含まれる」。北朝鮮にとって米朝対話が主目標で、6カ国協議は二の次というのだ。

 北朝鮮は昨年12月以来6カ国協議を拒否、4月の外務省声明で「二度と参加しない」と宣言した。金正日総書記も9月18日、中国の胡錦濤国家主席の特使、戴秉国国務委員との会談では「2国間または多国間の対話に応じる」と述べたが、6カ国協議には言及しなかった。それから2週間余りあと、上記のように金正日総書記は温家宝首相との会談で取って付けたような形で6カ国協議に言及した。6カ国協議の議長国である中国の立場に配慮した発言であるのは明白だった。

 この金・温会談の2週間前、胡錦濤国家主席は国連総会に出席、日米韓露4カ国首脳と個別会談をした。この席で、同主席は6カ国協議の継続で各首脳と合意。また、同主席はオバマ大統領との会談で、米朝2国間会談は6カ国協議の枠内で行うことでも一致した。同主席が韓国の李明博大統領との会談で「北朝鮮を6カ国協議に復帰させるため参加国が努力するべきだ」と語ったことも伝わった。金正日総書記は温家宝首相との会談で6カ国協議に触れざるを得ない状況だった。


・北朝鮮の核放棄は米の核放棄が条件

 金正日総書記が6カ国協議に言及しても、それが協議復帰を意味すると考えることは難しい。北朝鮮の狙いはあくまでも米朝対話で核保有国の立場を確保することにあるからだ。北朝鮮が最近国連安保理に送った一連の文書もそれを裏付けている。9月3日の安保理議長宛の書簡では、北朝鮮が使用済み核燃料棒を再処理して核兵器用のプルトニウムを抽出している状況やウランの濃縮実験が最終段階に入ったことなどを詳細に記述。北朝鮮が事実上の核保有国であることを誇示した。

 また、北朝鮮は10月1日には、国連安保理に外務省報道官の談話を送付。安保理が9月24日採択した「核兵器のない世界」決議について「核独占を維持しようとする核大国の策動だ」と非難した。同決議が名指ししてはいないものの、北朝鮮を非核保有国として扱い、NPT(核拡散防止条約)に再加盟するよう要求したためだ。北朝鮮はこの談話で「NPTは米国の対北朝鮮孤立政策の道具」と非難、「再加盟など想像もできない」として、非核保有国扱いを拒否した。

 この談話はまた「北朝鮮は米国の核の脅威に半世紀以上も曝されて止むを得ず核兵器を持った。従って、米の核の脅威がなくならない限り、我々は核兵器を放棄しない」と主張。その上で「米国が北朝鮮に対する核政策を放棄し、核兵器のない世界を築く動きと並行して、我々も朝鮮半島非核化の努力をする」と主張している。北朝鮮は核保有国として、米と対等の立場で核軍縮に臨み、北朝鮮が核兵器放棄をするのは米が放棄し、核兵器のない世界が生まれる時という主張である。


・北朝鮮が6カ国協議復帰を渋る背景

 この北朝鮮の主張に対し、オバマ大統領と胡錦濤国家主席は9月22日の会談で「6カ国協議を再開し、同協議の共同声明に従って北朝鮮の核問題を解決すること」を再確認した。日韓露3国もこの方針に同意している。北朝鮮は05年9月に調印した6カ国協議の共同声明で「すべての核兵器を放棄して、NPTに再加盟し、IAEA(国際原子力機関)の査察を受けること」に合意した。この時は、北朝鮮が非核保有国としてNPTに再加盟することに合意したのである。

 北朝鮮を除く6カ国協議参加国はこの共同声明を盾に北朝鮮に核兵器の早期放棄を迫る方針だ。北朝鮮にとっては、6カ国協議の共同声明は核保有国の立場を確保する上で障害以外の何物でもなくなった。北朝鮮外務省が4月の声明で「6カ国協議はこれ以上必要がなくなった。二度と絶対に参加しない」と宣言したのは、この状況を反映している。北朝鮮が現状で6カ国協議に復帰すれば、この共同声明の合意を実行するよう迫られ、苦しい立場に立つのは目に見えている。

 金正日総書記は温家宝首相との会談で6カ国協議に言及したが、こうした過去の経緯をみれば、北朝鮮が同協議に簡単に復帰するとは思えない。温家宝首相は10日北京で開催した日中韓3カ国首脳会談で金正日総書記との会談の内容を説明した。そのあと発表した共同声明は「各国が北朝鮮の6カ国協議への早期復帰に促すことで合意した」と述べている。金正日総書記が6カ国協議に言及したのは6カ国協議議長国の中国の首相に配慮した単なる外交辞令だったと思わざるをえない。


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