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日米関係新展開の背景
持田直武 国際ニュース分析

2009年3月1日 持田直武

オバマ大統領が経済再生の処方箋を示した。金融、自動車、住宅市場を再生。新エネルギー開発や教育改革で再起を図るという。だが、厖大な国債の発行が必要で、米国だけでは消化できない。同大統領がクリントン国務長官を日本に派遣。麻生首相をホワイトハウスに招いたのも、協力を求めるための布石だった。


・米経済再生策が生む史上空前の赤字

 オバマ大統領は24日の議会演説で、再生と開発という2分野から成る経済再生の処方箋を示した。再生する分野は、金融、自動車、住宅市場など。開発する分野は、新エネルギー、医療、教育だ。再生によって、弱体化した分野を活性化。その一方で新分野を開発、活力ある新産業を生み出すという構想だ。同大統領は「これを達成すれば、米国は以前にも増して強い姿で国際舞台に再登場する」と主張した。だが、それには厖大は財政支出が必要、厖大な赤字も出る。

 オバマ大統領が26日提出した予算教書によれば、赤字は09年度が1兆7,500億ドル(約170兆円余)になる。前年度の赤字4,550億ドルの約4倍、過去最高だ。だが、これだけでは済まない。銀行救済費が今後も膨張、10月の金融安定化法で決めた7,000億ドルでは足りず追加が必要だ。この赤字体質は今後も続き、10年度は1兆1,710億ドル、11年度9,120億ドル、オバマ大統領の任期が終わる13年度も5,330億ドルの赤字となる。

 これに伴って累積赤字と国債の発行額が増加する。米財務省によれば、米政府の累積赤字は2月19日時点ですでに10兆8,020億ドル。これに09年度以降の赤字が次々と加算され、10年後には倍増するという見方が有力である。国債の発行額もこれに伴って倍増する。オバマ大統領がクリントン国務長官を2月16日から日本、中国に派遣。麻生首相をホワイトハウスに招いたのも、日本と中国が米国債の最大の引き受け国であることと無関係ではない。


・日中英が米経済再生の影の担い手

 国債は発行した国家が国内で保有することが本来望ましい。米国と価値観が違う国が購入し、政治的な武器として悪用する事態が考えられるからだ。しかし、貯蓄率の低い米国では、国内で消化する額は限られ、米国債の外国保有は年々増加している。米財務省によれば、08年6月の時点で、外国保有は発行総額の約30%に増えた。保有高の1位は、中国で6,819億ドル、2位が日本の5,771億ドル、3位が英国で3,600億ドル。この3国で発行総額の15%を超える。

 クリントン国務長官は21日、中国の揚外相と会談したあとの記者会見で「中国が米国債の信用維持に貢献している」として感謝の意を表明。また、中国テレビ局のインタビューでも、この問題に触れ「我々は盛衰を同じくしている」と本音を漏らした。同長官は「中国が米国債を購入しなければ、米経済は再生しないし、中国もそれでは困る。中国の購入が米経済再生の必須条件だ」と主張。米中両国は米経済の再生によって、利益を分かち合う関係にあると強調した。

 また、クリントン国務長官は上記の記者会見で、中国の人権問題について「人権を理由に経済危機や地球温暖化など地球規模の議論を避けるべきではない」と発言。中国の人権活動家とは面会しなかった。同長官としては、対中姿勢の180度転換だった。同長官は昨年4月の大統領選挙戦の演説では、チベットの人権弾圧を非難、北京オリンピックのボイコットを呼びかけた。同長官の今回の発言には、オバマ政権が米国債の最大の保有国である中国に対し配慮する姿が滲み出ている。


・クリントン長官訪問の背景に北朝鮮の政権交代説

 オバマ大統領がクリントン国務長官を日中韓に派遣、麻生首相をホワイトハウスに招いた背景には、もう1つ、最近の北朝鮮の動きに対する危機感がある。ロサンゼルス・タイムズによれば、同長官は19日韓国に向かう特別機の中で記者団と会見、「金正日総書記が近く退陣する可能性がある」との見解を表明した。最近の北朝鮮の一連の動きが指導者の交代が近いことを示しているという。米の外交責任者が公開の記者会見で、この種の発言をするのは異例と言ってよい。

 クリントン国務長官はこの会見で、さらに「平和的な権力継承でも、不確実なことが起きやすい。北朝鮮の場合、新指導者が権力を固めるために挑発的になりかねない」と述べて、混乱の可能性があることを示唆した。同長官は権力交代の具体的な動きには言及しなかったが、ロサンゼルス・タイムズは「同長官の発言は、金正日総書記の退陣が近いとの見方が広がっていること。それに備えて、米中や、韓国などが対応策を練っていることを明らかにした」と解説した。

 北朝鮮は昨年12月の6カ国協議が不調に終わったあと、韓国との全面対決を宣言。国防相や軍総参謀長の入れ替えなど一連の人事を実施した。同時に長距離ミサイルを打ち上げる動きも加速。打ち上げれば、日米韓との対立激化は必至である。この北朝鮮の動きの背後で、権力交代の動きがあるのか、まだわからない。しかし、オバマ大統領がクリントン国務長官を日米韓に派遣、麻生首相をホワイトハウスに招いた動きの背景に、この北朝鮮の動きもあるとする見方には説得力がある。


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