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北朝鮮は核実験で何を狙うのか
持田直武 国際ニュース分析

2009年5月31日 持田直武

北朝鮮が25日、2回目の核実験を敢行。これを伝えた朝鮮中央通信は「実験の成功が150日戦闘に立ち上がった我が軍隊と人民を大きく鼓舞している」と伝えた。150日戦闘は、金正日総書記の三男正雲氏が主導しているとみられる総動員態勢。核実験の狙いが何処にあるかを示唆している。


・後継者は金正日総書記の三男正雲氏

 北朝鮮メディアが150日戦闘という総動員態勢を伝え始めたのは5月に入ってからだ。そして、これが金正日総書記の後継問題に深く関わる運動であることが、4日の労働新聞の社説で分かる。同紙は、金正日総書記が主導した70年代の「70日戦闘」や「100日戦闘」、80年代の「200日戦闘」を振り返った上で、「今回の150日戦闘は、我が党の歴史上、特記するべき出来事になる」と強調。この運動と後継問題が密接にからむことを示唆した。

 金正日総書記は74年2月、後継者に指名されたあと、「70日戦闘」や「100日戦闘」などで指導者としての実績を積み、94年の金日成主席の死去後、正式に権力を継承した。4日の労働新聞の社説は、この金正日総書記が歩んだ権力継承のプロセスが今回新たに始まったことを示唆したのだ。ただし、労働新聞はこのプロセスを歩む総書記の後継者が誰なのかについてはまったく触れなかった。しかし、韓国では金正日総書記の3男正雲氏という見方が有力だ。

 韓国の聨合ニュースによれば、正雲氏は現在26歳、今年1月後継者の指名を受け、すでに北朝鮮の最高権力機関である軍事委員会の指導員のポストに就いて活動しているという。150日戦闘は、正雲氏がこのポストで企画、主導しているとみられている。韓国の専門家の見方では、この戦闘が満期になる5ヵ月後の10月、労働党の全国大会、あるいはそれに匹敵する全国規模の会議を開催、金正日総書記が正雲氏を正式に後継者に任命するのではないかという。


・核実験は国内の政治不安を抑え込むため

 今回の150日戦闘の直接の目的は、故金日成主席の生誕100年にあたる2012年までに「社会主義の強盛大国」を建設するため、国民を総動員することだという。北朝鮮のメディアによれば、強盛大国とは、国力が強く、すべてが栄え、人民が裕福に暮らす国のことである。核実験の成功を伝えた25日の朝鮮中央通信は「実験は強盛大国の扉を開くための炎を燃え上がらせ、150日戦闘に立ち上がった我が軍隊と人民を鼓舞した」と強調。正雲氏の150日戦闘にエールを送った。

 この報道に見るように、今回の北朝鮮の核実験の背景に後継問題があることは、多くの専門家が指摘する。27日のニューヨーク・タイムズ(電子版)も、米政府高官たちの話として「今回の核実験は後継者をめぐる北朝鮮内部の暗闘と関連があると理解するべきだ」と伝えた。同高官たちは「金正日総書記が急速に衰える健康を抱えながら、若い三男正雲氏を後継者の地位に就けなければならない。その切迫した状況が国内の政治不安を招いている」と見ているという。

 金正日総書記が昨夏、循環器系の病変で倒れたと伝わったあと、北朝鮮は韓国批判を強め、6カ国協議から離脱、ミサイル実験に続いて、さらに今回の核実験と海外に向けて強硬姿勢を取り続けている。これまで、こうした核実験や一連のミサイル発射は、米と交渉する立場を有利にし、譲歩を引き出すためという見方が多かった。しかし、北朝鮮の最近の動きはむしろ、北朝鮮内部の政治不安を抑え込み、後継体制の確立を図ることに重点があるという見方が強まっているのだ。


・北朝鮮が暴発する不安が膨らむ

 この北朝鮮の動きに対し、国際社会は対応に苦慮している。国連安保理は25日、北朝鮮の核実験直後に緊急会合を開催、実験は国連安保理決議1718違反だと強く非難、新決議を作成することで直ちに合意した。そして、新決議をまとめる協議には、常任理事国5カ国に日本と韓国も加わった。しかし、新決議の内容をめぐって中国と各国の意見が調整できず、決議採択は大幅に遅れることが確実だ。決議の内容が厳しいと、不満な北朝鮮が暴発するという見方があるからだ。

 今回の新決議案として、日米は武器禁輸や北朝鮮船舶の臨検など5項目を提案。その中の船舶臨検では、必要な場合武力行使を容認することも含んでいる。一方、北朝鮮も25日、韓国が大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に正式参加したことに反発、これを宣戦布告と見なすことや、黄海を航行する米韓両国の艦船の安全を保障しないことを宣言。新決議の内容次第で、北朝鮮と米韓が武力対決する可能性も否定できなくなった。中国はこれを警戒、新決議に対する慎重姿勢を崩さない。

 一方、北朝鮮外務省報道官は29日、国連安保理が新決議を採択した場合、対抗策として「更なる自衛措置を取る」という談話を発表。新決議に合わせて、ミサイル発射をするとの見方が強まっている。米韓両政府筋の情報では、北朝鮮のミサイル発射場で数日前から車の動きが活発になった兆候があり、発射するとすれば、6月4日過ぎの可能性もあるという。北朝鮮にとっては、強盛大国を目指す150日戦闘の一環だとしても、それで強盛大国が築けるのか、疑問はないのだろうか。 


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