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米国の核の傘が果す役割
持田直武 国際ニュース分析

2009年6月21日 持田直武

米韓首脳会談で、両国は「核の傘を含む拡大抑止力で韓国を守ること」を確認した。また、北朝鮮の核とミサイルの完全な廃棄でも合意した。金正日総書記は核武装した北朝鮮を後継者に引き継ぐ計画と言われるが、米韓はこれに真っ向から対決する姿勢を打ち出した。


・北朝鮮が核開発継続の方針を明確化

 金正日総書記が後継者に核武装した北朝鮮を引き渡す心算だという見方は前回のニュース分析で取り上げた。同総書記が6カ国協議を離脱、核とミサイル開発を加速させたのは、その計画推進のためだったという見方だ。北朝鮮外務省が13日に出した声明は、この見方を図らずも裏付ける内容となっている。同声明はまず、北朝鮮が「核を放棄することは絶対にありえない」と断言、05年の6カ国協議で約束した核放棄の合意を撤回することを明確にした。

 その上で、外務省声明はさらに次の3項目を宣言した。
 1)新たに抽出するプルトニウムの全量を兵器化する。
 2)ウラン濃縮作業を開始する。
 3)米と敵対勢力が臨検などで北朝鮮を封鎖すれば、武力で対決する。

 北朝鮮がこの声明で宣言した核放棄の合意撤回は、核武装した北朝鮮を後継者に引き継ぐために不可欠の要件である。放棄する核兵器を引き継いでも意味がないからだ。また、北朝鮮はこの声明で、プルトニウムとウラン濃縮という2つの手段で今後も核開発を継続する方針を示した。核武装した北朝鮮を造るためには、これも不可欠の要件だ。そして、米国をはじめとする敵対勢力がこれを妨害する行為に出た場合、武力で対決し、戦争も辞さないとの強硬方針を明らかにした。


・米韓は核の傘を含む拡大抑止力で対決

 これに対し、米韓両国は「核の傘を含む拡大抑止力」で対決するとの強い姿勢を打ち出した。オバマ大統領と李明博大統領は16日ホワイトハウスで会談し、「米韓同盟の未来ビジョン」と銘打った共同声明を発表。その中で、北朝鮮に対して要旨次のような対応策を取ることを明らかにした。

1)米国は韓国に対する「核の傘を含む拡大抑止力」を再確認する。
2)北朝鮮の核とミサイル開発を完全に廃棄する。
3)韓国は自国の防衛を主導、米は朝鮮半島と域内外の軍事力で支援する。
4)自由民主主義と市場経済の原則に基づき平和的統一を目指す。

 米がこの声明で確認した「核の傘を含む拡大抑止力」とは、朝鮮半島有事の際、米は核を含むあらゆる軍事力を使って韓国を守ることを意味する。ブッシュ政権で国家安全保障会議のアジア担当局長だったワイルダー氏が朝鮮日報に語ったところによれば、「米がこの拡大抑止力を提供している国は、日本と韓国だけだ」という。日本は日米首脳会談などでこれを確認しているが、米が韓国に対し共同声明で確認するのは今回が初めて。米韓が今回の北朝鮮の動きを如何に警戒しているかが分かる。

 問題は、北朝鮮がこうした米韓両国の動きをどう受け取るかである。米国が核の傘を含む拡大抑止力の韓国提供をあえて公表したのは、もし北朝鮮が韓国を攻撃すれば、米国が核兵器をはじめ、あらゆる軍事力を駆使して反撃する。そして、北朝鮮に壊滅的な打撃を与えるという強い姿勢を見せるためだ。北朝鮮がその結果を考えて、自らの攻撃を控えることを狙っている。しかし、現在の状況で、北朝鮮がそのような冷静な判断をするか、現状は予断を許す状況ではない。


・北朝鮮が攻撃するのは日本という見方

 米韓首脳会談は、この核の傘を含む拡大抑止力の問題のほか、北朝鮮との交渉再開についても検討した。会談後の記者会見で、李明博大統領は北朝鮮が今後も6カ国協議に応じない場合、北朝鮮を除いた5カ国で会議を開催、米がこの席で決めた提案を持って北朝鮮と交渉する案を検討したことを明らかにした。しかし、中国の意向など不明確な点も多いため首脳会談で結論は出さず、今後各国で協議することになったという。そんな矢先、関係国の耳目を奪う緊急事態が持ち上がる。

 米国防総省当局者が米メディアに対して、北朝鮮の貨物船カンナム号が軍事物資を積んで北朝鮮の港を出港したと発表した。同船はかねてから武器を積んで中東諸国やミャンマーなどを往復していると疑われていた。CNNテレビによれば、同船は17日軍事物資と疑われる貨物を積んで北朝鮮の港を出港、黄海を南下してシンガポールに向かっている模様だという。米軍はイージス艦ジョン・S・マケイン号とP3C哨戒機を出動させてこれを追跡、臨検の機会を窺がっている。

 国連安保理が12日に採択した決議は、このような場合の臨検の手順を決めている。米軍は今後、この手順に従ってカンナム号を臨検、積載貨物の内容を確認する。問題はこの過程で、北朝鮮がどう出るかだ。米の北朝鮮問題専門家セリグ・ハリソン氏は17日の米議会下院外交小委員会で「北朝鮮が攻撃するとすれば、韓国ではなく日本だ」と証言した。この見方は、同氏が今年1月訪朝して北朝鮮高官と会談した結果を踏まえたものだ。日本は部外者ではないのである。


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