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オバマ大統領が狙うパレスチナ和平
持田直武 国際ニュース分析

2010年10月4日 持田直武

イスラエルとパレスチナの直接和平交渉が難航している。仲介役のオバマ大統領は1年以内の妥結を目指すと宣言。米歴代大統領が成功しなかった仲介を今回は成功させると 意気込んでいる。だが、9月の2回の交渉のあと、イスラエルが入植地の建設を再開、これにパレスチナ側が反発し、予断を許さなくなった。


・失敗すれば、また血が流れる

 今回の和平交渉は、イスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のアバス議長が出席して9月2日から始まった。オバマ大統領が就任いらい続けてきた仲介工作の 成果だった。しかし、2回目の交渉のあと早くも岐路に直面する。イスラエルが占領地でユダヤ人入植地の建設を再開。パレスチナ側が反発して交渉を拒否しかねない構えになったからだ。オバマ大統領は23日の国連演説で「1年以内に和平の大枠を達成する」と強気の姿勢を崩さなかったが、予断を許さない状況になった。

占領地での入植地建設は、パレスチナ側がかねてから強く反発、和平交渉を妨げる障壁の1つだった。このため、オバマ大統領は今回の和平仲介にあたって、イスラエルに入植地建設の凍結を要求。ネタニヤフ首相はこれを受け容れ、昨年11月から10ヶ月間、建設を凍結した。その期限が2回目の交渉が終わったあとの9月26日に切れた。オバマ大統領は国連演説で「和平に失敗すれば、また血が流れる」と強調し、ネタニヤフ首相に対して建設凍結を続けるよう呼びかけた。

 だが、ネタニヤフ首相は凍結を続けなかった。その結果、入植地の建設作業が再開され、パレスチナ自治政府のアバス議長は苦しい立場に追い込まれた。同議長は、イスラエルが入植地の建設を再開すれば、交渉をボイコットするとかねてから表明していた。同議長が交渉から撤退すれば、和平交渉は崩壊する。オバマ政権はそれを避けようとしてアバス議長を説得。結局、同議長は10月8日に開催するアラブ連盟の会議で各国の意見を聞いたあと、結論を出すことになった。


・オバマ大統領がパレスチナ和平に懸ける執念

 パレスチナ和平は1948年のイスラエル建国と第1次中東戦争以来の懸案である。建国に反対するアラブ諸国との間で4次にわたる戦争が起き、その都度イスラエルが勝って占領地を拡大した。その後、イスラエルは93年のオスロ宣言で、パレスチナ住民の暫定自治を認めたが、和平協定締結には至らない。その結果、イスラエル建国で居住地を追われたパレスチナ難民の問題などアラブ側が不満を募らせる難問が未解決のまま山積。米歴代大統領が和平仲介など何らかの形で関わるのが慣例化した。

 オバマ大統領も大統領選挙戦でパレスチナ和平に取り組むと公約。09年1月就任すると3日後にミッチェル民主党元上院院内総務を特使に任命した。目標は08年いらい途絶えていた直接交渉を再開し、和平の大枠で合意することだった。オバマ大統領は23日の国連演説でその期限を1年以内と区切った。成功すれば、オスロ宣言にも勝る成果と評価されるのは間違いない。しかし、交渉開始早々、入植地建設問題で躓いたことが示すように前途多難なのも間違いなかった。

入植地建設はイスラエルが67年の第3次中東戦争で西岸やガザなどを占領した直後から始まった。占領地に入植することは国際法が禁止しているが、イスラエルは占領地の治安を維持する軍事拠点などと主張して入植地を増加。現在、入植地は西岸に121箇所、居住者30万人に上り、イスラエル政府は今後も建設を続ける構えだ。オバマ大統領はネタニヤフ首相に建設凍結の延長を要求、延長すれば軍事援助の増加など提案しているといわれるが、同首相は受け容れを拒んでいる。


・東エルサレム返還問題などでも変化の兆しなし

 入植地の問題は建設を凍結するだけでは済まない。和平を達成するには、イスラエルが占領地に建設した入植地を撤去するか、パレスチナ側に引き渡すか、何らかの形で処理することが必要だ。イスラエルは05年、ガザの軍事占領を終結した時は入植地をすべて撤去した。しかし、西岸で同じ処置を取る可能性はないとみられる。ネタニヤフ政権内では、土地交換によって入植地をイスラエル領に取り込むというリーバーマン外相など強硬派の案が支持を拡大、パレスチナ側は警戒している。

 入植地の問題と並んでもう1つの難題はエルサレムの帰属だ。国連が1947年、パレスチナを分割して、イスラエルとパレスチナ2国家建設を決議した時、エルサレムは国際管理とした。ところが、イスラエルは48年の第1次中東戦争で西エルサレムを占領、67年の第3次中東戦争で東エルサレムを占領して西エルサレムに併合した。これに対し、パレスチナ側は東エルサレムをパレスチナの首都と決め、イスラエルに返還を要求しているが、イスラエルが応じる気配はない。

 このほか、海外に100万人ともいわれるパレスチナ難民の帰還問題やガザを実行支配しているハマスとアバス政権の関係をどう調整するかの問題もある。オバマ大統領は1年以内に和平の大枠合意を達成すると熱意を表明したが、課題はあまりにも多い。ただ1つ注目されるのは、関係者の多くが和平達成の機運はこれまでになく高いと期待感を表明していることだ。この期待に応えるためにも、第1の関門となった入植地建設問題を早急に乗り越えなくてはならない。


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