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国際社会は核拡散を防げるか
持田直武 国際ニュース分析

2010年1月24日 持田直武

北朝鮮との核交渉が壁に突きあたった。ブッシュ政権下の核無能力化交渉が破綻してから1年余。交渉再開の目処も立たない。もう1つの核拡散の焦点、イランとの核交渉も交渉が中断している。交渉中断中、両国の核開発が進むのは間違いないのだが、国際社会の現状では、打つ手がない。


・核放棄の期限をめぐる攻防

 北朝鮮は1月11日核問題に関連する2つの提案をした。朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に代える交渉の開始と、制裁解除を条件に6カ国協議に応じるという提案だ。これに対し、日米韓の3カ国は直ちに拒否。中国も6カ国協議優先の立場を表明して間接的に拒否した。日米韓と中国は6カ国協議を早急に再開し、北朝鮮に核放棄を迫る立場で一致している。今回、北朝鮮の提案を拒否したのは、この北朝鮮提案の真の狙いは6カ国協議再開を阻むことにあると見たからだ。

 この両者の対立の背景には、核放棄の期限をめぐる駆け引きがある。05年9月の6カ国協議共同声明で、北朝鮮はすべての核兵器、および既存の核計画を放棄し、朝鮮半島を非核化すると約束した。日米韓と中国はこの約束の実行を迫るため、6カ国協議の早期開催を要求している。一方、北朝鮮も朝鮮半島の非核化は故金日成主席の遺訓だとして必ず実施すると事あるごとに強調している。しかし、問題はその非核化を何時実施するかである。

 実は、05年9月の6カ国協議共同声明は核放棄の期限を決めなかった。その結果、北朝鮮と他の6カ国協議参加国の間に期限をめぐる溝が生まれる。日米韓中ロは、核放棄の早期実施の立場で一致している。しかし、北朝鮮は06年10月の最初の核実験以降、核放棄の期限に触れたことはない。むしろ、北朝鮮は核保有国として米と対等の立場で核交渉をするという主張や、核放棄の前提として米の敵視政策の撤回を要求するなど、核兵器の長期保有を狙うとしか思えない言動を強めた。


・オバマ政権の課題

 北朝鮮が11日に表明した平和協定と6カ国協議に関する提案も、この対立の延長線上に位置付けられる。同提案は「平和協定が締結されれば、敵対関係が解消され、非核化を早いペースで推進できる」と主張。まず平和協定を締結、そのあと核放棄という立場を示している。しかし、日米韓は北朝鮮の核放棄が先で、そのあと平和協定や関係正常化をするという立場だ。この立場からみれば、北朝鮮の平和協定提案は核放棄を遅らせるための計略ということになる。

 北朝鮮は今度の提案で、6カ国協議についても「制裁という差別と不信の障壁が除去されれば、6カ国協議も直ちに開催できる」と主張。北朝鮮が同協議に復帰する条件として、国連制裁の解除を要求した。しかし、国連制裁は北朝鮮の核実験やミサイル発射に対する罰として科したもので、国連安保理が解除することはありえない。北朝鮮はそれを承知の上で6カ国協議復帰の条件に挙げたのは明白。日米韓からみれば、これも核放棄を遅らせる動きとしか見えない。

 北朝鮮はこれらハードルの高い条件を挙げて、日米韓などの攻勢をかわし、核保有国の立場を固める心算だとみられている。これに対し、国際社会は打つ手がないのも事実だ。オバマ政権は昨年12月、ボズワース特別代表を初めてピョンヤンに派遣したが、立場の違いを確認しただけに終わった。クリントン、ブッシュ両政権は経済援助と制裁を組み合わせて核放棄の実現を狙ったが、成果はなかった。ほかにどんな方法があるのか、それを探すことが今後の課題となった。


・イランの核疑惑も交渉の限界

 北朝鮮と並んでもう1つ、核拡散の焦点になっているのがイラン核疑惑だ。同疑惑は02年8月、イラン反体制派の暴露によって発覚。英仏独3国が交渉した結果、イランはそれまで秘密裏に進めていたウラン濃縮の中止を約束、IAEA(国際原子力機関)が濃縮施設を封印した。しかし、05年8月強硬派のアフマディネジャド大統領が就任して、この約束を破棄。それ以来、核施設を次々と拡大、ウラン濃縮用の高速遠心分離機を増設して濃縮ウランを蓄積している。

 このイランの動きに対し、国連安保理常任理事国5カ国とドイツ、いわゆるP+1が国際社会を代表して交渉を開始。国連安保理は06年12月と07年3月、ウラン濃縮中止を要求して経済制裁決議をしたが、イランは濃縮を止めない。イランはNPT(核拡散防止条約)加盟国でIAEAの査察を受けている。しかし、イランはその査察を掻い潜って聖地コムの近郊に大規模な核施設を新たに建設していることも昨年9月に発覚し、IAEAの査察にも限界があることを露呈した。

 イランは公式には、ウラン濃縮は平和利用のためで核兵器が目的ではないと主張している。確かに、イランが現在濃縮しているのは純度3%台の低濃縮ウランで、核兵器製造には90%以上の高濃縮ウランが必要だ。しかし、昨年3月のIAEA報告によれば、イランは核兵器1個を製造するのに必要な低濃縮ウラン1000キロ以上を当時すでに確保。米のマレン統合参謀本部議長はそれから2ヵ月後の5月、イランの核兵器製造が可能になるのは今後1ー3年以内と語った。


・イラン核疑惑では武力行使も選択肢

 イランと北朝鮮の核交渉で違うのは、軍事力行使を選択肢に入れるかどうかだ。北朝鮮との交渉では、どの関係国も軍事力行使を排除している。しかし、オバマ大統領は昨年9月「イランに対してあらゆる選択肢を排除しない」と語り、前任のブッシュ政権の政策を踏襲して軍事力行使を手段の1つに挙げた。イランが核武装した場合に最も脅威を受けるのは、イスラエルである。米が強い姿勢を見せなければ、イスラエルが武力行使をしかねないという不安があるのだ。

 P+1の6カ国は16日の高官協議で、イランに対して国連制裁を追加するかどうか協議したが、意見がまとまらなかった。制裁に消極的な中国は高官を派遣しなかった。それから3日後の19日、イランはIAEAが提案した低濃縮ウランをイラン国外に搬出して平和利用の燃料棒にするという案を正式に拒否した。濃縮ウランの軍事転用を防ぐための案だったが、イランはこれを受け入れなかったのだ。P+1諸国も対話だけで核拡散を防げるかという課題に直面している。


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