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普天間基地の移設問題と民主主義
持田直武 国際ニュース分析

2010年5月9日 持田直武

昨夏の総選挙で、民主党の鳩山代表が普天間基地を「最低でも県外」に移設すると約束、基地反対の民意が盛りあがった。だが、鳩山政権が成立した今、米が県外移設に反対し、この民意が叶えられる見通しはない。日本では、鳩山首相の不手際として批判が高まっているが、米ではオバマ政権の傲慢な対応に批判が出ている。


・日本の民主主義を救え

 日本で普天間基地の移設問題を論じる場合、鳩山首相が言い出した「県外移転」の約束に焦点をあてる例が多い。総選挙で勝つため実現不可能な「県外移設」を約束し、有権者を騙したとの観点からだ。しかし、米では、盛りあがった反基地の民意に焦点をあてる論評が多い。大手インターネット新聞「ハフィントン・ポスト」が2月10日に掲載した「日本の民主主義を救え」という論評もその1つ。同紙の外交問題担当責任者ロバート・ナイマン氏が執筆した。

 同氏はこの記事で民意尊重の立場から次のように主張している。「日本の有権者の過半数は『普天間基地はいらない』と声をあげた。しかし、米政府はこの有権者の意思を無視し、鳩山新政権に対して総選挙の公約を破棄せよと圧力をかけている」と批判。その上で、同氏は「米国が民主主義を世界に広める政策を進めていることは誰もが知っている。それなのになぜ、日本で有権者の声を聞き、沖縄から基地を引き揚げないのか、そして民主主義を実践しないのか」と主張している。

 ハフィントン・ポストは05年、著名人の意見を掲載するリベラル派のインターネット新聞として創刊。オバマ大統領やクリントン国務長官、映画監督のマイケル・ムーア氏などが寄稿することが人気を呼んで急成長、メディア調査会社ニールセンの調べでは今年3月の訪問者は1300万人。大手新聞社のインターネットサイトを上回る訪問者を誇るようになった。普天間の米軍基地移設問題についても節目ごとに取り上げ、独自の視点から論陣を張っている。


・米政府の傲慢な姿勢に批判も

 ハフィントン・ポストが3月4日に掲載した「太平洋の逆風」という記事もその中の1つだ。同紙のジョン・フェファー共同編集長が執筆した。同編集長はその中で「日本は過去60年間、米国の要求に対し常にイエスと答えた。しかし、今回の鳩山首相の行動は米国が基本的に重要と考える問題にもノーと答える動きの始まり」と分析。そして、同編集長は「この動きはアイゼンハウアー大統領が『不滅の同盟』と自賛した日米同盟に亀裂が入ったことを意味する」と書いている。

 普天間問題が日米同盟を傷つけるとの見方は他にも多い。ロサンゼルス・タイムズは5月6日、著名な国際政治学者チャルマーズ・ジョンソン氏の「沖縄のもう1つの戦い」という論評を掲載した。同氏はこの中で「鳩山首相は臆病で卑怯だと思う。しかし、私はそれ以上に日本をこの屈辱的な袋小路に追い込んだ米政府の傲慢な態度が嘆かわしい」と嘆息している。そして「米国のこの態度が日米の同盟関係を将来にわたって傷つけることになるだろう」と予測している。

同氏はその原因として「米国は外国に基地を持ちすぎている」と書いている。それによれば、「米国は第二次大戦以後、世界130カ国に700以上の基地を持ったが、管理能力がない」という。しかも、「最近は基地の撤去を求めるホスト国が増えた。それにも拘らず、米政府は基地の維持に執着している」と主張。「米国は基地政策を転換し、普天間の海兵隊を米本土に戻すべきだ。そして、沖縄の人たちに65年間、ありがとうという感謝の言葉を送るべきだ」と主張している。


・鳩山総理が背負う国民の総意

 普天間基地移設問題は06年5月、自民党政権下で日米合意が成立、14年までに名護市辺野古への移設が完了する筈だった。しかし、昨夏の総選挙で「最低でも県外移設」を掲げた鳩山内閣が成立。それ以来、沖縄では県外移設への期待が日を追って高まった。沖縄タイムスが4月中旬に実施したアンケート調査によれば、沖縄県内の41市町村の首長全員が「県内移設に反対」と回答した。そして、19人の首長が望ましい移設先として「県外か国外」と回答した。

 日本全国の世論も沖縄県内への移設に反対する意見が多数だ。読売、朝日、毎日、産経の4紙とNHKが11月に個別に実施した世論調査では、06年の日米合意の見直しを求める回答がすべての調査でトップとなり、日米合意どおり県内移設を進めるべきだという回答を上回った。この調査結果について、沖縄タイムスは11月29日識者の意見として「民主党が総選挙で掲げた『県外、国外移設』という公約の履行を国民全体が迫っているのではないか」と伝えた。

 鳩山総理はこの国民の総意を背負って米と対決しなければならないが、立ちはだかる壁は厚い。チャルマーズ・ジョンソン氏が言うように「米は傲慢な態度で日本を屈辱的な袋小路に追い込んだ」だけではない。米の手には「抑止力」という日本側が内容を知りえないブラックボックスもある。その効果か、最近は鳩山首相が米国の主張を背負って日本の民意の切り崩しを謀っているようにさえ見える。米国内に「日本の民主主義を救え」という主張が出るのも無理はない。


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