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G−2、米中時代の課題
持田直武 国際ニュース分析

2011年1月9日 持田直武

中国が2010年度GDP(国内総生産)で米国に次ぐ世界第2の経済大国となった。胡錦濤国家主席はこの肩書きを背負って19日から訪米、オバマ大統領と会談する。米中G−2時代の始まりである。32年前のケ小平訪米は冷戦の壁に穴を開け、共産圏崩壊の序曲となった。胡錦濤主席は今度の訪米でG−2時代の最初の指導者として所信を問われることになる。


・胡錦濤国家主席の訪米に関心集まる

 中国の胡錦濤国家主席は1月19日に国賓として訪米、オバマ大統領と会談する。両首脳は国連総会など各種国際会議の場ではしばしば会談しているが、中国が米に次ぐ世界第2の経済大国の立場を確定、G−2となってからでは初めてだ。カーター政権の安全保障担当補佐官として米中国交正常化に貢献したブレジンスキ元大統領補佐官は1月2日のニューヨーク・タイムズに寄稿、「今回の胡錦濤訪米は1979年のケ小平訪米以来の重要な意味を持つものになるだろう」と予測している。

ケ小平氏は訪米1ヶ月前の中国共産党中央委員会で実権を掌握した。これで同氏が主唱した改革開放路線が党の指導原理となった。同氏はこれを鞄に入れてカーター大統領と会談、米と経済協力を進めることや、ソ連の拡張主義に対して共同で対処することなどで合意した。改革開放路線の核心は疲弊した共産主義経済を市場経済に転換することだが、その実施には米との経済協力が不可欠だった。同時にソ連が異議を唱えて介入した場合、米と足並みを揃えて対抗することも必要だった。

ケ小平氏の訪米は成功し、中国は経済大国に向かって動き出した。その一方で、ソ連傘下の共産圏は中国が離脱したあと内部矛盾が拡大、10年後に崩壊した。当時の世界は、資本主義と共産主義の2陣営が激しく対立した冷戦時代だった。ケ小平の訪米はこの冷戦の壁を突き破り、共産圏を葬り去る破壊力を持っていた。その訪米から30年余、中国はケ小平氏が敷いたロードマップを忠実に守って世界第2のGDP(国内総生産)大国に躍進、米中G−2時代を担う立場となった。


・米中G−2時代の課題

 胡錦濤国家主席はこうして生まれた米中G−2時代の最初の中国側指導者である。19日から始まる訪米は、同主席とオバマ大統領の両首脳がこのG−2時代の指導者として如何なる所信を持つのかを問われる場となる。上記のブレジンスキ氏は寄稿の中で、「胡錦濤主席の訪米を単なる儀式として終わらせるのではなく、歴史的に意義あるものにしなければならない」と主張。そのために「両首脳は今後の米中パートナーシップの基礎となる共同宣言を発表するべきだ」と提言している。

 ブレジンスキ氏はこの共同宣言の内容として、両首脳はまず「米中のパートナーシップは国家の利己的な利益を超越した高い観点に立って、幅広い任務を担うものであることを明確に宣言すること」。また、「この米中パートナーシップの行動規範は、相互依存を深める21世紀の国際環境の求めに答えることを道義的使命とすること」などを提案している。米中両国が行動の基準を国家の利己的な利益に置くのではなく、より高い道義的使命を行動規範とするべきだというのである。

 ブレジンスキ氏がこのように主張する背景には、冷戦の再開を思わせる状況が最近の米中関係に起きているからだ。人民元の切り上げ問題をめぐる米中間の軋轢やノーベル平和賞をめぐる問題、地球温暖化対策やイランの核開発疑惑、さらには一触即発とも言える最近の朝鮮半島情勢など、国際問題のほとんどに米中の対立が拡大し、疑心暗鬼の負の連鎖を起こしていると言っても過言ではない。ブレジンスキ氏は胡錦濤主席の訪米を機にこの負の連鎖を転換するべきだと提言したのだ。


・胡錦濤訪米で朝鮮半島の不安は消えるか

 19日からの胡錦濤主席の訪米でまず焦点となるのが朝鮮半島問題である。昨年、北朝鮮は3月の韓国哨戒艦沈没事件、11月の延坪島砲撃事件という2つの軍事挑発を敢行。核開発も従来のプルトニウム核開発に加え、11月にはウラン濃縮による核開発の存在も公開した。これに対し、中国は理由を問わず北朝鮮を全面支持、国連安保理でも常任理事国の影響力を行使して北朝鮮をかばい続けた。一方、米韓は合同軍事訓練を強化して対抗、日本もこれを支援し、冷戦時代の対立関係が再現している。

6カ国協議開催を探る動きもあるが、局面の転換になるか現状では疑問が多い。79年のケ小平訪米が実現した背景には、それを促した米側の動きもあった。当時のカーター大統領は77年1月の就任直後、国防費60億ドル削減、韓国配備の核兵器撤去、在韓米軍の地上部隊の撤退を決断した。ところが、共和党保守派や在韓米軍のシングローブ参謀長など軍幹部がこぞって反対、計画は大幅に縮小された。だが、この米側の動きが2年後の米中国交正常化とケ小平訪米につながった。

 胡錦濤国家主席の今回の訪米がどのような成果をもたらすか、今は未知数である。ブレジンスキ氏が提唱した「米中パートナーシップ宣言」についても、ブッシュ前政権の幹部は「どっちつかずの間抜けな提案」と厳しく批判した。ブレジンスキ氏は米中が「国家の利己的な利益を超越して、道義的使命を行動の規範とする」よう求めているが、これは米の保守派には認めがたいことのようだ。だが、現在のままでは米ソ両陣営が対決したかつての冷戦に代わって、米中対決の新冷戦にならないか、不安は消えない。


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