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オバマ大統領の再選、不安感も芽生える
持田直武 国際ニュース分析

2011年2月20日 持田直武

オバマ大統領が来年11月の大統領選挙に再選を目指す準備を始めた。選挙資金は前回の2倍にあたる10億ドルが目標。今のところ対抗する有力候補はいないが、オバマ大統領も万全の態勢とは言えない。中東の騒乱が拡大する不安や初の黒人大統領に対する中傷など乗り越えるべき障壁は多い。


・選挙資金の多寡が選挙結果を左右

 米国憲法は大統領になる資格として次の3つを挙げている。1、米国生まれの米国人か、外国生まれでも両親が米国人であること。2、35歳以上であること。3、米国に14年以上住んでいること。これらを満たせば、選挙準備委員会を設立して選挙管理委員会に届け出ることができる。受理されれば、大統領候補者として資金集めができる。オバマ大統領はこの選挙準備委員会を3月中に届け出ることを明らかにした。次期大統領選挙の投票日は12年11月6日、まだ1年9ヶ月もある。

 大統領になるには憲法が規定する上記の資格のほかにも必要な条件は山ほどある。中でも重要なのが選挙資金を集めることだ。資金集めで勝った候補者が選挙で勝つと言っても過言ではない。08年選挙で当選したオバマ大統領は選挙資金として総額5億1、300万ドルを使い、6,940万票獲得した。1票を獲得するために7ドル39セント使ったことになる。これに対し、対立候補のマケイン共和党候補は3億4,666万ドル支出。1票獲得に使った費用は5ドル78セントだった。

 米大統領選挙は4年ごとに行われ、回を重ねるごとに選挙費用は増える。12年の次期選挙では、オバマ大統領は前回の2倍、10億ドルの資金が必要との見方が強い。しかも、この資金は、候補者が民間の個人献金を中心に集める。公的資金を使う選択肢もあるが、支出に上限があるため主要な候補はこれに頼らず、献金だけで戦う。その結果、選挙運動は献金集めと票集めが並行して進むことになる。オバマ大統領は前回の選挙で草の根有権者から小額の献金と1票をセットで獲得する選挙戦を展開して勝った。


・現時点でオバマの対抗馬なし、だが油断は禁物

 米大統領選挙でも3バン、地盤(支持母体)と看板(知名度)、それに鞄(資金)の3つが重要なのは言うまでもない。その点、現職大統領は4年間も国政の中心にいるため、看板(知名度)と鞄(資金)の2つの面で有利な立場に立てる。オバマ大統領もその面では強力な対抗馬はいない。しかし、もう1つのバン、地盤については今後の展開をみないと何とも言えない。今後、有力な対立候補が出る可能性や、国際情勢の急変などで支持母体に異変が起きる恐れも考えられるからだ。

 民主党では、80年選挙で落選したカーター大統領がこのような例の典型だった。同大統領は77年就任すると、中国と国交正常化を実現したのをはじめ、ソ連とは戦略核兵器の制限条約調印、イスラエルとエジプトの和平条約仲介など短期間に画期的な実績を重ねた。だが、これに不安を抱く勢力も内外に拡大。80年選挙では、民主党の有力者で、故ケネディ大統領の末弟エドワード・ケネディ上院議員が対立候補として登場し、支持母体の民主党が両派に分裂してしまう。

 これに加え、イランのホメイニ革命がカーター大統領を窮地に追い込んだ。同大統領は革命で追放されたパーレビ国王を見捨てず、米国亡命を引き受けた。同国王が米の中東政策に協力的だったことに配慮したのだが、これが仇となった。反発したイラン革命防衛隊が79年11月からテヘランの米大使館を占拠、大使館員52人を館内に444日間にわたって幽閉した。同大統領は米軍や情報機関を使って救出作戦を実施するが悉く失敗し、選挙を前に国内の支持率は急落。結局、選挙では共和党のレーガン候補が大差で勝利した。


・オバマ政権が中東の騒乱拡大に神経質になる理由

 オバマ大統領が警戒するのはイランのような事態が再び起きないかということだ。ホメイニ革命が始まったのは79年1月。この革命によって、それまで中東最大の親米国家だったイランは中東第一の反米国家に変身した。その過程で、カーター大統領は追放された国王を最後までかばってイラン革命政権と対決。この対応が不評を勝って再選を阻まれた。今回のエジプトの政変で、オバマ大統領が早々とムバラク大統領の退陣を唱えたのは、このホメイニ革命時の記憶があったためだ。

 しかも、今回の中東の騒乱はさらに拡大する兆しさえある。エジプトに続いて、オバマ政権が神経を尖らせているのはバーレーンだ。同国は人口130万人の小王国だが、米にとっては中東最大の戦略拠点である。米海軍第5艦隊の司令部があり、イラクやアフガニスタンへの補給基地、イランの勢力拡大に対する防衛拠点として中東戦略には欠かせない。だが、バーレーン国内は人口20%余りのスンニ派が実権を握り、多数のシーア派住民の不満が蓄積している。今回のデモも親米政策を推進するハリファ国王の追放を要求、これが現実になれば米の中東政策には大きな打撃になる。

 この状況がオバマ大統領の再選見通しに影響を与え始めた兆候もある。17日発表のギャラップ世論調査所の調査結果によれば、12年の大統領選挙でオバマ大統領に投票すると答えた有権者は45%、共和党が決める候補者に投票すると答えた有権者も45%で両者が並んだ。これまではオバマ大統領がリードする例がほとんどだった。また、同時に調査したオバマ大統領の支持者の調査では、18歳から34歳までの若者層のオバマ支持は51%で、オバマ大統領が当選した08年選挙の63%を大きく下回った。オバマ大統領の支持母体が崩れ始めているとみることもできる。


・選挙戦では激しい中傷合戦の予想も

 オバマ大統領は今年1月で就任いらい満2年。だが、これと言った実績がない。12年の大統領選挙投票日まで1年9ヶ月あるが、この間に実績を挙げるとみられる予定も特にない。同大統領が去年3月、成立させた医療保険制度を実績の1つと唱える向きもあるが、これは日本のような全国民が加盟する医療保険制度にはほど遠く、米国の無保険人口を無くすことはできなかった。次期大統領選挙で共和党候補はこの制度の廃止を公約に掲げ、論戦になるとみられている。

 もう1つ、オバマ陣営の懸念は米の選挙に付きものの中傷合戦の行方だ。オバマ大統領の場合、ケニア人の父と米国人の母を両親にハワイで生まれたという入り組んだ関係が中傷する側のネタになる。前回08年の大統領選挙でも、一部ではオバマ大統領がハワイで生まれたという証拠はなく、実際にはインドネシアで生まれたなどという流言が絶えなかった。米国以外で生まれたことが事実なら冒頭で示したように憲法の規定で米国大統領になる資格はない。

今回オバマ大統領が再選の方針を表明する直前、ハワイ州のアーベルクロンブル知事が地元新聞の質問に答え、オバマ大統領がハワイ生まれであることを示す出生の記録が見つかったと発表した。だが、知事は民主党で、オバマ大統領の父親や母親と知り合いの上、見つかったという記録も公開しなかった。このため知事の発表だけで疑念が解消すると思う向きはいないと思われている。これも米国史上初の黒人大統領が背負う十字架とみるべきかもしれない。


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