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中東の騒乱 オバマ大統領の綱渡り
持田直武 国際ニュース分析

2011年4月10日 持田直武

米が悪化したサウジアラビアとの関係修復に動き出した。両国はエジプトの政変やバーレーンへのサウジ軍派遣をめぐって対立。影響が原油供給面などにも及ぶのではないかと懸念されていた。関係修復の背景は不明だが、米がサウジに大規模な武器供与を約束したほか、民主化勢力に対する姿勢でも譲歩したとみられる。


・アブドラ国王がゲーツ長官と1時間半の密談

 サウジアラビアのアブドラ国王は4月6日リヤドで米のゲーツ国防長官と1時間半にわたって会談した。ニューヨーク・タイムズによれば、会談はアブドラ国王とゲーツ国防長官、それに国王の通訳として同席したジュベイル駐米大使の3人だけで行われた。会談内容は双方とも公表しなかった。ただ、ゲーツ国防長官は記者団に対して「会談は心のこもった友好的なものだった。両国関係は良い状態にある」と語り、悪化していた関係が修復に向かったことを示唆した。

 両国の関係悪化は2月上旬、エジプトの民主化要求デモが原因だった。オバマ大統領が市民の民主化要求を支持してムバラク大統領に退陣を求めたのに対し、アブドラ国王は「米国が盟友を見捨てた」と激怒。3月中旬には、同国王はオバマ大統領の反対を押し切って隣国バーレーンにサウジアラビア軍を派遣。バーレーンのハマド国王が民主化要求デモを鎮圧するのを支援した。米・サウジ両国が民主化勢力への対応で真っ向から対立し、両国関係は最悪の状態に落ち込んだ。

 この背景には、民主化勢力に対する米とサウジアラビアの見解の相違がある。オバマ政権は今回の一連のデモを民主化要求の表明として支持。各国政府と民主化勢力の対話を主張している。これに対し、サウジは、デモはイスラム教シーア派の反体制運動と主張。その狙いはサウジはじめアラブ諸国のスンニ派政権を打倒することで、シーア派国家イランが背後で操っているとみるのだ。サウジがバーレーンに派兵したのは、こうしたイランの勢力浸透を阻止するためという主張だ。


・武器供与でイランに対する共同戦線

 アラブ諸国にとってペルシャ民族のイランは宿敵だが、イランが79年シーア派の原理主義国家になると対立はさらに深まる。サウジアラビアが主導してペルシャ湾岸のスンニ派王国6カ国で湾岸協力会議を結成したのも、イランのシーア派勢力の拡大に対抗するためだった。湾岸6カ国の王室はいずれもスンニ派だが、サウジを除く5カ国は国民の70%以上がシーア派だ。イランが扇動すれば、デモが単なる民主化要求に止まらず、スンニ派王制の打倒運動に転化するとの恐れが消えない。

 その恐れが現実になっているのがバーレーンだ。同国は人口79万人余りの小王国だが、2月中旬からシーア派住民を中心とするデモが拡大、治安部隊と衝突する険悪な事態が続いている。湾岸協力会議は3日リヤドで緊急会議を開催し、「イランが介入して宗派間の対立を煽っている」との声明を発表した。これに対し、イランのアフマディネジャド大統領が反論、デモは「国民が差別撤廃を要求して起こした」と主張、デモの中心になっているシーア派住民を擁護する立場を隠さなかった。

 サウジアラビアが恐れるのはこのシーア派の動きが他の湾岸諸国にも及ぶことだ。米もイランの勢力拡大を警戒する点ではサウジと同じだ。オバマ政権が最近サウジに対する600億ドルを超える大規模な武器供与を決めたのも、狙いはイランの勢力拡大を牽制することにある。供与の内容はF-15戦闘機、各種ミサイルなどで、イランが最近急ピッチで進めている一連のミサイル開発に対抗する武器類だ。米とサウジの関係修復にあたって、この武器供与が貢献したのは明らかだった。


・バーレーンでは民主化勢力を見捨てる

 オバマ大統領は09年6月のカイロ演説で「各国の国民の意思を尊重する」ことを中東政策の基本に据えた。そして、「国民が選んだ政府で、国民の意思を尊重する政府なら我々と意見が違っても尊重する」と約束した。これが中東の民主化勢力を勢いづけたのは間違いない。それから1年半、中東は北アフリカのチュニジアから始まった民主化要求デモで揺れている。チュニジアとエジプトでは長期独裁政権が崩壊、今リビアとイエメン両国の独裁者が追い詰められている。

 オバマ大統領の中東政策はここまでは順調だった。ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3月5日、オバマ政権がチュニジアとエジプトの政変を「民主化勢力の大勝利」と評価していると伝えた。だが、オバマ政権にとって真の課題は湾岸諸国の動きにどう対応するかだ。湾岸の小王国は少数派のスンニ派が実権を握り、多数派のシーア派が不満を募らせ、その背後でイランが動いている。この湾岸に西側世界にとって不可欠な石油があり、地域の安全保障の要となる米海軍第5艦隊司令部がある。

 オバマ大統領はチュニジア、エジプト、リビアまではデモを支持し、長期独裁政権に退陣を要求した。バーレーンのデモでは、初めはハマド国王に民主化勢力との対話を要求。サウジがデモ鎮圧に軍隊を派遣することに反対した。しかし、オバマ大統領はこの姿勢を転換した。バーレーンはサウジアラビアのいわば分国、米第5艦隊司令部もある。オバマ大統領はサウジアラビアとの関係改善を優先し、バーレーンの民主化勢力への支持を控えたに違いない。民主化勢力側はオバマ政権に介入して、治安部隊の武力鎮圧を阻止するよう要請しているが、答えはないという。


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