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米民主主義殿堂の混乱
持田直武 国際ニュース分析

2011年4月24日 持田直武

昨年の中間選挙の結果、米もねじれ議会になった。おかげで昨年10月から執行する筈の11年度予算は今月14日ようやく議会を通過した。次の焦点は連邦債務残高の上限を引き上げる問題。議会が7月8日までに上限引き上げ法案を可決しないと、米政府は債務不履行(デフォルト)になり、世界経済は混乱するに違いない。


・党利党略が先行、債務不履行の恐れ払拭できず

 米議会は5月2日から予算審議を再開、連邦債務残高の上限引き上げ問題を取り上げる。米財務省によれば、連邦債務の現在の上限は14兆2,940億ドル。一方、債務残高は4月11日時点ですでに14兆2,210億ドル、上限まで730億ドルの余裕しかなく、5月16日には使い切る。そのあと、財務省が年金基金への政府支出を遅らせるなどのやり繰りをしても、凌げるのは7月8日まで。議会がその前に上限引き上げを議決しなければ、債務不履行(デフォルト)に陥る。

 国家が債務不履行に陥った例は1998年のロシアや2002年のアルゼンチンなど過去に例がないわけではない。しかし、米国のような世界経済を背負う立場の国家が債務不履行になった例は過去になく、そうなった場合の影響は想像すらできない。ガイトナー財務長官は4月中旬以降、テレビ各社のニュースショーなどに連続出演「債務不履行になれば、混乱は3年前の金融危機の比ではない」と強調。議会に対して早急に上限引き上げをするよう要求し続けている。

 だが、議会はねじれ状態ということもあって動きは鈍い。昨年10月1日から執行する筈の11年度予算も民主、共和両党指導部がそれぞれの主張に固執して折り合わず、4月14日ようやく議会を通過した。その間、暫定予算でつないだのだが、両党はその暫定予算審議でも対立。政府は4月上旬、予算不足のため政府の一部業務を閉鎖する寸前まで追い込まれた。債務残高の上限引き上げ問題でも、同じような対立が起きるのは明らかで、債務不履行にもつれ込む恐れが払拭できない。


・対立の背景に民主、共和両党の政府をめぐる見解の相違

 共和党が債務残高の上限引き上げの条件として債務削減額の合意を要求していることも問題を複雑にしている。政府の債務残高は上記のように4月11日時点で14兆2,210億ドル。ブッシュ政権時のイラク戦費やオバマ政権の金融危機対策で一気に膨張、先進国では最悪の水準になった。連邦予算は今後も11年度1兆6,000億ドル、12年度も1兆ドルを超える赤字が続き、債務残高は16年度に21兆ドルに拡大する見込みだ。民主党もこの削減に賛成だが、削減額や方法は共和党とは大きく違う。

 現在の民主党案は、オバマ大統領が今月13日財政再建計画として発表したもので、今後12年間に債務を4兆ドル削減することになっている。2月に発表した予算教書では今後10年間に2兆1,830億ドル削減する方針だったが、この削減幅を大幅に増額した。民主党案はこのための財源として年収25万ドル以上の富裕層に対する課税優遇措置、いわゆるレーガン減税を打ち切って増税するほか、国防費の削減や社会保障費などを縮小して政府支出を抑える計画も明らかにした。

 この民主党案に対し、共和党のライアン下院予算委員長は15日、下院に12年度の予算決議案を提出、今後10年間に債務4兆3,820億ドルの削減を目指す方針を示した。社会保障費を大幅に削減する一方で、富裕層に対するレーガン減税や国防費は現状のまま維持する。民主党が増税に重点を置くのに対し、共和党は社会保障費など政府支出の大幅削減に重点を置く対立だ。両党がこの対立を調整し、債務残高の上限引き上げの期限前に債務削減額で合意できるのか、疑問は多い。


・2年後の大統領選挙を視野に入れた対決

 米議会は昨年の中間選挙で共和党が下院で躍進、ねじれ議会となったが、これも債務問題の合意を難しくしている。当選した共和党の新人議員60人余りは保守派の草の根運動、ティーパーティが支援した。その主張はワシントンの権威主義を忌避し、小さい政府をつくって減税するという共和党の伝統的な価値感に基づいている。共和党新人議員はこの原則に忠実で、共和党指導部の意向どおりに動くとは限らない。債務残高の上限引き上げ問題でも、共和党指導部が引き上げに賛成しても、彼ら新人議員が従うとは限らないとみられている。

 米国内の世論が債務残高の引き上げに厳しい目を向けていることも引き上げ反対派を勇気付けている。米CBS放送が4月21日に発表した世論調査によれば、引き上げに反対が63%、賛成はわずか26%だという。中でも、共和党員の引き上げ反対は83%と圧倒的多数、民主党内でも48%が引き上げに反対している。引き上げなかった場合の混乱は想定していない。実は、オバマ大統領も上院議員だった06年、当時のブッシュ政権が債務残高の上限引き上げを議会に要請した時、反対票を投じた。

これについて、オバマ大統領は4月11日報道官を通して声明を発表「間違いだった。この問題は軽々しく扱うものではない」と謝罪した。同大統領は4月に入って12年の大統領選挙に立候補する意向を表明。4月末のイースター休暇には地方遊説を開始した。だが、支持率は低迷している。15日発表のギャラップ世論調査所の調査によれば、支持率は41%で過去最低だった。もし、議会が債務残高の上限引き上げを7月8日の期限内に実施しなければ、世界経済は混乱し、オバマ大統領の再選の可能性はなくなるに違いない。


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