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米大統領選挙 大揺れの兆し
持田直武 国際ニュース分析

2011年8月21日 持田直武

米国債の格下げがオバマ大統領を厳しい立場に追い込んだ。折も折、テキサス州のペリー知事が共和党の大統領候補の名乗りをあげた。同知事は保守系の2大全国組織ティー・パーティとキリスト教福音派が支持する期待の星。共和党候補の指名を獲得すれば、オバマ大統領にとって最も手強い相手となるに違いない。


・米国債格下げショックがオバマ大統領を直撃

 大手格付け会社S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)が8月5日、米国債の長期信用格付けの引き下げを発表した。2日に成立した「債務上限引き上げ法」では「米の中長期的な財政運営の安定に不十分」という理由だ。同法の成立で、オバマ政権は債務不履行の危機をかろうじて回避した。だが、ほっとする間もなく「格下げショック」が週明け8日の金融市場を襲った。G7(先進7カ国)の財務相と中央銀行総裁が急遽電話協議し、「市場の混乱を回避するため必要なあらゆる手段を講じる」という共同声明を発表したが、ショックを抑えることはできなかった。

当事者であるホワイトハウスも混乱していた。ワシントン・ポスト(電子版)によれば、8日朝オバマ大統領のスケジュールには「格下げについて発言する予定」はなかった。しかし、ニューヨーク株式市場で取引開始と同時に幅広い銘柄に売り注文が殺到すると、ホワイトハウスは大統領の予定を変更、「オバマ大統領が午後1時に格下げについて声明を出す」と発表した。しかし、準備に時間がかかり声明は1時半に延期。そして、実際にオバマ大統領がテレビカメラの前で声明を読み上げたのは、さらに遅れて1時52分だった。


・これが地球上の最強の男か?

 オバマ大統領はこの時の声明で「格付け会社が何と言おうと、米国はこれまで最高位トリプルA(AAA)の国家であったし、今後もそうであり続ける」と強調。米大統領がS&Pの格下げ判断に正面から反論するという異例の内容となった。しかし、株式市場はこの大統領の声明を無視して下げ幅を拡大した。大統領が声明を読み始めた時、ダウ平均は1万1,035ドルだったが、すぐに1万1,000ドルを割り込み、終値は前日比634.76ドル安。08年のリーマン・ショック以来の大幅な下げ幅となった。市場がS&Pの判断に軍配を挙げたのと同じだった。

 翌日のワシントン・ポスト(9日電子版)は、コラムニスト・ミルバンク氏の「これが地球上の最強の男か?」と題するコラムを掲載した。同氏はこの中で「オバマ大統領にすべての責任を押し付けるのはフェアーではない。しかし、市場は彼を無視した。それが問題なのだ。米国の大統領は世界で最も力のある指導者である。その指導者が突如、無力で決断力のない男とみられるようになった。想定外の大きな力が米国と米大統領を骨抜きにしたかのようだ」と論評した。米メディアがこのような悲観的論調を掲載するのは異例である。


・オバマ大統領の再選見通しに暗雲

 米国債の格下げが、再選を控えたオバマ大統領にとって重いハンディになるのは間違いない。ギャラップ世論調査所が13日から3日間かけて実施した調査によれば、オバマ大統領の支持率は39%で、同大統領が就任いらい初めて40%の大台を割り込んだ。中でも、同大統領の経済政策については支持率がわずか26%、不支持が71%に上った。現職大統領が再選を果たすには投票日直前の支持率が50%前後でなければならないと言われている。今後支持率を高めるためには、景気の回復が不可欠だが、その見通しも明るいとは言えない。

 FRB(米準備制度理事会)は9日「今後2年間、現在の低金利政策を続ける」と発表した。米のメディアはこの発表について「FRBが1年3ヶ月後の大統領選挙投票日までに景気が回復していない可能性を示唆したもの」と解釈している。景気が低迷し、失業率が9.1%と高止まりしたままの現在の状況が続けば、オバマ大統領が再選を果たす可能性はないとみられているのだ。再選を果たせなかったフォード、カーター、ブッシュ(父)の3元大統領も落選理由の1つは不況だった。


・共和党の大統領候補、本命はペリー知事

 このオバマ大統領の苦境を尻目に勢いづいているのが共和党の大統領候補たちだ。これまではオバマ大統領が現職の強みもあり、共和党にチャンスはないという見方が強かった。しかし、米国債の格下げショックで状況が変わった。選挙管理委員会に届け出た共和党の候補は16人、このうち注目されるのは3人だ。1人は穏健派のロムニー元マサチューセッツ州知事。もう1人は保守派の草の根運動ティー・パーティの支持を受ける下院議員バックマン女史。残る1人は8月13日に立候補を宣言したテキサス州のペリー知事。同知事はティー・パーティのほか、キリスト教福音派にも多くの支持者を持っている。

 世論調査会社ラスムセンが8月15日に実施した調査によれば、上記3人の支持率はペリー知事が29%、ロムニー元知事が18%、バックマン下院議員が13%だった。また、フォックス・ニュースが8月7日−8日に実施した調査では、ロムニー元知事が21%、ペリー知事が13%、バックマン下院議員が7%だった。この調査時、ペリー知事はまだ立候補していなかったが、それでも13%の支持を獲得。共和党保守派の間では共和党大統領候補の本命との期待が高まった。


・オバマ大統領にとって最も手強い相手

 ペリー知事の強みはリーマン・ショック後テキサス州の経済をいち早く立て直したことだ。中でも雇用の増加数は全米の雇用増加の38%に相当する高い伸びを達成した。この知事としての実績のほか、保守派の2大全国組織ティー・パーティとキリスト教福音派の双方に多くの支持者を持ち、保守派のカリスマ的存在になっていることも強みだ。このため、同知事が今後共和党の予備選挙を勝ち抜いて共和党候補になれば、オバマ大統領にとっては最も手強い相手になるとみられている。


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