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米大統領選挙 共和党の本命
持田直武 国際ニュース分析

2011年9月4日 持田直武

共和党の党員の71%は保守派である。従って、共和党は保守派が党の大統領候補を決める圧倒的な力を持つことになる。テキサス州のペリー知事はその保守派の期待を担って立候補、支持率トップに躍り出た。投票日まで1年3ヶ月、この間同知事が大統領の器かどうかが試される。


・米政治を動かす保守、穏健、リベラルの3派

 米の政治は2党3派が動かすと言っても過言ではない。2党とは、2大政党制を構成する民主、共和両党である。3派は、保守派、穏健派、リベラル派のことだ。大統領選挙はこの2党3派による政権争奪戦と言える。その前半の予備選挙は、民主、共和両党が党の大統領候補を指名する過程だが、それは同時に党の指導権をどの派が握るかを決める過程でもある。選挙戦の後半の本選挙は、こうして決まった民主、共和両党の大統領候補が政権の掌握を目指して対決する。

 今回の選挙では、民主党は現職のオバマ大統領が再選を目指して出馬することが決まっている。このため関心は共和党から如何なる対立候補が登場するかにしぼられた。オバマ大統領は政治思想の面ではリベラル色の強い穏健派というのが定評だ。ギャラップ世論調査所が8月1日に発表した調査結果によれば、民主党では自分を穏健派と考えている党員が39%、リベラル派が38%、保守派が24%である。リベラル色の強い穏健派のオバマ大統領としては党内の足場は固まっている。

 これに対し、共和党では党員の71%が自分は保守派だと考えている。穏健派は24%、リベラルは4%で、保守派が飛び抜けて多い。1950年代は民主、共和両党とも党内の3派の分布はほぼ均衡していた。しかし、冷戦以後は共和党系のキリスト教福音派の勢力拡大や、最近のティー・パーティ運動の盛り上がりなどもあって、共和党内の活動的保守派が激増した。今回の大統領選挙では、この活動的保守派が共和党の大統領候補探しの指導権を握っている。


・ペリー知事は本命候補か

 だが、共和党には保守派の期待に答える大統領候補は長い間現れなかった。8月中旬時点で、共和党の立候補者は10人、フロント・ランナーはロムニー元マサチューセッツ州知事だった。しかし、同候補は穏健派で敬虔なモルモン教徒。キリスト教主流派を自認する福音派やティー・パーティの活動家には不満だった。ロムニー元知事に次ぐ支持率2番手はミネソタ州出身の下院議員バックマン女史だった。だが、彼女は過激な主張でティー・パーティの支持を受けたものの、偏頭痛持ちなど健康面の懸念が残り、支持は限定的だった。

 こんな中の8月13日、テキサス州のペリー知事が立候補した。共和党内の活動的保守派が本命として期待してきた候補である。同知事はその1週間前の土曜日、全国のキリスト教福音派指導者や活動家2万人をテキサス州ヒューストンのフットボール・スタジアムに招待、午前10時から午後5時まで断食と祈りの会を主催した。大統領に立候補するにあたって、全米に根を張るキリスト教福音派の支持があることを誇示するデモンストレーションだった。

 ペリー知事が立候補した4日後、ギャラップ世論調査所が実施した調査結果によれば、ペリー知事の支持率は29%で共和党候補のトップだった。ロムニー知事は17%、バックマン女史は10%である。同時に実施したオバマ大統領との支持率の比較では、オバマ47%対ペリー47%の同率だった。ペリー知事は立候補後わずか数日でフロント・ランナーとなった。だが、問題はこれからである。まず、同候補が大統領に相応しい指導者かどうか、党内と党外からの審査が始まる。


・遊説先の質問は「地球は何歳か?」

 ペリー知事は立候補の5日後、ニューハンプシャー州を遊説、この最初の審査に直面した。同知事が街頭で有権者に接していた時、一人の女性が小学低学年の男児を連れて現れ、「地球は何歳か?」と知事に質問させた。同知事は初め「はっきりしたことは知らない。誰か正確な年齢を知っている人がいるのか、私にはわからない」と答えた。しかし、女性はこれに不満でさらに「知事は進化論や科学を信じないのか?」と男児に質問させた。女性の意図は同知事がテキサス州で実施している進化論教育の批判にあるのは明らかだった。

 米では神が地球や人間を造ったという聖書の天地創造説を信じ、ダーウィンの進化論を認めない有権者が少なくない。テキサス州などバイブルベルトと言われる南部諸州の保守派の中には、学校で進化論を教えることに反対する意見がある。このため、テキサス州の公立学校では進化論と天地創造説の双方を並行して教えている。ペリー知事は女性の質問に対して「進化論と天地創造説には違いがある。テキサス州で双方を教えるのは、子供たちが成長してどちらが正しいか理解できるようにするためだ」と答えた。

 この遊説では、ペリー知事に対しもう1つ難しい質問が出た。地球温暖化説についてである。同知事は「地球温暖化説は政治的に歪められている。学者の中にはデータを捏造して温暖化の危機を誇張し、研究費を騙し取るものがいる。しかし、最近は温暖化説の誤りを正す学者が多くなった」と主張。温暖化は誇張されているという米保守派の間に根強い誇張説を支持した。ペリー知事を支持する保守派がこうした答えをどう受け止めるかが、同知事の今後の運命を決めることになる。


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