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米大統領選挙 ティー・パーティ運動の影響力
持田直武 国際ニュース分析

2011年9月19日 持田直武

共和党の大統領候補は保守派のペリー・テキサス州知事か、あるいは穏健派のロムニー・マサチューセッツ州元知事に絞られてきた。ペリー知事は保守派の草の根運動ティー・パーティが強く支持しているのに対し、ロムニー元知事は共和党の穏健派エスタブリッシュメントの支持がある。オバマ大統領にとって、どちらも手強い対抗馬になるに違いない。


・南部保守派のペリーと北東部の穏健派のロムニーの対決

 共和党の大統領候補指名レースに立候補した候補は9月18日時点で9人。CNNが15日に発表した調査結果によれば、このうち支持率1位はペリー知事で30%、2位はロムニー元知事18%、3位は立候補を表明していないペイリン・アラスカ州前知事で15%だった。草の根運動ティー・パーティの支持で一時支持率が高かったミネソタ州選出の下院議員バックマン女史は支持率4%で6位と大きく後退した。この結果、共和党の大統領候補は、保守派のペリー知事か、あるいは穏健派のロムニー元知事のどちらかに絞られてきた。

 穏健派のロムニー元知事は64歳。ミシガン州元知事の父親を持ち、ハーバード大学のロー・スクールとビジネス・スクールを修了。敬虔なモルモン教徒で若い頃、同教会のフランス派遣使節として活動した。その後、実業界で成功して巨万の富を築いたあと、共和党員として政界に転身。03年から07年までマサチューセッツ州知事。同州の財政再建に取り組み膨大な財政赤字を解消したことや、全米で初めて州民全員を対象とする医療保険制度を制定して無保険者の一掃をはかるなど実績を挙げた。大統領選挙に立候補するのは08年に次いで2度目、前回は予備選挙でマケイン上院議員に敗れたが、知事時代の実績を評価して副大統領候補に推す動きもあった。

 一方、保守派のペリー知事は61歳。テキサスの牧場主を父親に持ち、テキサス農化大学を卒業したあと、兵役に就き空軍パイロットになった。77年空軍大尉で退役して牧場経営に参加。84年から政界に入り6年間民主党の州議会議員。その間、共和党に党籍変更して90年公選の州農業コミッショナーに当選。98年に共和党のブッシュ知事(その後大統領)の副知事に就任した。そして00年、ブッシュ知事が大統領に当選したあと後任の知事に就任。08年選挙で3選を果たし、共和党の全国知事会議の議長に選出された。知事としては、リーマン・ショック後のテキサス州経済をいち早く立て直し、雇用の創出に成果を挙げたと評価されている。


・ペリー知事の強みはティー・パーティの支持

 ペリー知事は8月13日立候補宣言をして以来、数々の世論調査で支持率トップの座を維持している。同知事の強みは2つの草の根の全国組織ティー・パーティとキリスト教福音派の双方に多くの支持者を持つことだ。同知事が保守派の理念で州政治を仕切り、成果を挙げたと評価しているのだ。この状況が続けば、ペリー知事が共和党の大統領候補の指名を獲得し、オバマ大統領と対決することになる。最近のオバマ大統領の支持率低迷などを考えると、ペリー政権が誕生する可能性も否定できなくなった。だが、ペリー知事はそれに相応しい器なのか、今大統領候補の討論会(ディベート)でそれが問われている。

 討論会はこれまでに4回開催され、ペリー知事は3回目のカリフォルニアの討論会と4回目のフロリダの討論会に出席した。立候補するや否や支持率トップの候補となっただけに他候補の追及は鋭かった。中でも、支持率1位の座を奪われたロムニー元知事がペリー知事の州知事として実績を追及、討論会はペリー対ロムニーの対決の様相になることがしばしばだった。論争の焦点は、社会保障制度の改革問題、子宮頸がんのワクチン接種の是非、不法移民問題、地球温暖化問題など、いずれも保守派と穏健派が厳しく対決する問題である。

 中でも、関心を引いたのは社会保障制度の改革問題だ。同制度は1935年、ルーズベルト大統領が大恐慌後のニューディール政策の一環として創設した歴史的制度。しかし、最近は米社会の高齢化の進行で将来財政的に行き詰まるのは確実となった。この問題で、ペリー知事は昨年出版した著書で同制度を「ねずみ講」と断じ、廃止を主張した。討論会でも、同知事は「社会保障制度は政治的には聖域の存在だが、財政的には維持できない。若者をこれに加入させるのは騙すのと同じ」と主張した。若者が今保険料を払っても将来年金は貰えないというのである。ニューディール政策などリベラルな政策に反対している保守派はこのペリー知事の過激な発言に喝采するが、ロムニー元知事はじめ穏健派は過激すぎると眉をひそめるのだ。


・ティー・パーティが狙うもの

 ロムニー元知事はじめ穏健派は「社会保障制度は改革して維持せざるを得ない」という立場だ。候補者討論会でも、ロムニー元知事は「ペリー知事が社会保障制度の廃止など強硬な主張を続ければ、共和党の大統領候補に指名されても、オバマ大統領に勝てない」と主張した。社会保障制度は財政面の問題はあるが、年金生活者など米国民の多くの生活がこれに懸かっている。だが、保守派の中には市場経済信奉者が多く、社会保障制度をはじめとする公営制度を社会主義として忌避する考えが根強い。ブッシュ前大統領も05年社会保障制度を公営から民営に移管すると提案し、翌年の中間選挙で共和党が敗れる原因の1つとなったことがあった。ワシントン・ポスト(電子版)も15日「共和党の主流派はペリー知事の過激な発言に不安を深めている」という論評を掲載した。ペリー知事が社会保障制度などで過激な発言をすることは、ティー・パーティ運動の参加者を喜ばせるが、一般有権者は背を向けかねないという不安があるのだ。

 ティー・パーティ運動が今のような巨大な力を持つようになったのは09年1月、オバマ大統領が就任してからだ。同大統領がリーマン・ショック後の経済立て直しのため巨額の経済刺激策を実施、財政赤字を一気に膨張させた頃である。これに反発したティー・パーティは「米国が破産する」というスローガンを掲げ、「政府支出の削減」と「小さな政府の実現」を主張。昨年11月の中間選挙で共和党が下院の多数を獲得する原動力となった。ティー・パーティ運動の次の目標について、同運動幹部は「来年の大統領選挙でオバマ大統領を退陣に追い込み、上下両院の過半数を制することだ」と言う。

 ティー・パーティがこの目標達成のため期待している候補の1番手がペリー知事だ。同知事はティー・パーティ運動と並ぶもう1つの草の根組織キリスト教福音派にも多くの支持者がいる。発言が過激に過ぎることもあるが、これら草の根運動の支持が揺るがなければ共和党の大統領候補の指名を獲得するに違いない。ロムニー元知事は共和党主流派エスタブリッシュメントの中に支持者を持つが、草の根運動との関係は薄い。ティー・パーティの集会に招かれるのは最近になってからだ。また、敬虔なモルモン教信者ということもあって、キリスト教福音派との交流もほとんどない。ただし、予備選挙で勝って共和党の大統領候補になれば、オバマ大統領と互角以上の戦いが可能だとみられている。


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