メインページへ戻る

オバマ第二期政権が直面する課題
持田直武 国際ニュース分析

2012年11月11日 持田直武

米国の次期大統領にオバマ大統領が再選された。有権者は同大統領が推進するリベラル派の政治を支持したのだ。同大統領は第二期政権でリベラル派長期執権の基礎を固めたい。だが、共和党保守派も下院で多数を維持、オバマ政権との対決姿勢を強めている。財政の崖をめぐる対決はその最初の矢合せである。


・ビル・クリントン元大統領のしたたかな計算

 米国でも選挙戦の勝者は勝利に貢献した支持者の労をねぎらって論功行賞をする。では、今回のオバマ大統領再選に最も貢献したのは誰かと言えば、間違いなくビル・クリントン元大統領である。ビル・クリントンは9月の民主党全国大会でオバマ大統領を党候補に推薦する名演説をして一躍選挙運動の中心に躍り出た。選挙戦終盤ではオバマ大統領と二人三脚で接戦州を遊説。共和党の前大統領候補マケイン上院議員が「ブロマンス(ホモセクシュアルのプラトニック・ラブ)」と呼ぶほど息の合った連携ぶりで選挙戦をリードした。オバマ大統領がロムニー候補を振り切って勝利したのはこのビル・クリントンとの連携があったからだ。

 では、ビル・クリントンに対する論功行賞は何か。これについてはオバマ大統領もビル・クリントンも黙して語らない。しかし、誰もがこの2人の協力関係を次回16年の大統領選挙の関連で捉えている。ワシントン・ポスト紙のダナ・ミルバンク記者は10月27日の記事(電子版)で次のように書いた。「ビル・クリントンは自分の実績にしようとしてオバマ大統領を支援しているのではない。彼はしたたかな戦略家だ。オバマ大統領が今年再選されなければ、次の16年選挙で妻のヒラリー・クリントンが大統領になることはないと承知しているのだ」。ビル・クリントンの狙いは妻ヒラリーを米国初の女性大統領にすることにあるというのだ。

 ミルバンク記者は「オバマ大統領も同じ認識だ」と次のように書いている。「同大統領は4年後の16年選挙の時、米経済は今よりはるかに強くなっていると考えている。経済が力強く成長している時、選挙では与党候補が強いのが普通だ。与党がどちらの党であっても同じだと考えている」。オバマ大統領も次回16年選挙でヒラリー・クリントン大統領が実現するには、自分の再選が前提になると考えているのだ。ビル・クリントンはその再選に多大の貢献をした。オバマ大統領が次の16年選挙でその借りを返したいと考えても可笑しくない。


・立ちはだかる財政の崖

 次回16年の大統領選挙の時、米経済はこれまでの長期低迷を脱して活気を取り戻すという見方は多い。商務省が10月26日に発表したGDP速報値によれば、12年第3四半期のGDPは年率換算で前期比2.0%上昇した。第2四半期に比べ1.3%アップで景気がようやく拡大の兆しになったことを示した。行政管理予算局も「16年度にはGDPが年率4%に上昇、失業率は6%を割り込む」という見通しを出した。オバマ大統領としては第二期政権下でこの流れを確実なものとし、就任時の目標だった経済再生を実現したい。それがヒラリー・クリントン国務長官をホワイトハウスに送り込み、ビル・クリントンに借りを返すことにもなる。

 だが、立ちはだかる難問も山積している。その最初は財政の崖の問題だ。この問題は議会が正常に機能していれば起きない問題だった。それが与野党の対立で法案処理が停滞、ブッシュ政権時代の減税法など5,600億ドル相当の減税措置が失効。来年からこれが増税となって国民の財布を直撃する。その一方で政府支出が1,100億ドルもカットされ各種補助金が削減される。その結果、1世帯あたり平均3,500ドル(約28万円)の負担増になるという。それに加え連邦債務残高が上限に達し、新たな上限を設定しなければならないという問題もある。崖を回避できなければ、米経済は来年前半にリセッションに突入、オバマ第2期政権は足をすくわれかねない。


・対立が解ける兆しなし

 問題の根源にあるのは膨張する財政赤字の累積を食い止めることである。その財源として、オバマ大統領と民主党は富裕層に対する増税を主張している。富裕層は米国民の2%だが、米国の富を支配し共和党の強固な支持基盤だ。このため、共和党は富裕層の増税に強く反対し、それに代わる財源として社会福祉費の削減を主張している。しかし、社会福祉は民主党リベラル派の看板政策、削減はオバマ政権の基盤を揺るがしかねない。財政の崖の問題が起きたのもこの対立が原因だった。背景には民主、共和両党の理念の対立があり、今のところ解決の見通しは立たない。

 オバマ大統領は9日声明を発表、12日から議会指導者を招いて財政の崖を回避するための協議をすると発表した。しかし、同じ声明で「富裕層に増税する案は今回の選挙で国民の過半数が支持した」と強気の発言をし、妥協する姿勢は見せなかった。ホワイトハウスのカーニー報道官は12日の記者会見で「オバマ大統領は来年度から富裕層への税率を現行の35%から39.6%に引き上げる計画だ」と述べ、「これ以外の如何なる提案が議会を通過しても、大統領は拒否権を行使する」と断言した。 オバマ大統領の強気に姿勢に対し、共和党がどうでるのか予断を許さない。共和党を代表して交渉するボイナー下院議長は9日「協議は選挙で勝ったオバマ大統領が主導するべきだ」と同大統領に下駄を預けるかのような発言をした。財政の崖を回避するために残された時間は残すところ1ヶ月半、オバマ大統領がこれを乗り切らなければ、経済は大打撃を被り、ヒラリー・クリントン国務長官に政権を引き継ぐことも難しくなる。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2012- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.