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米大統領選挙 雇用の改善がオバマ大統領再選の鍵
持田直武 国際ニュース分析

2012年7月16日 持田直武

大統領選挙戦は民主党のオバマ大統領と共和党ロムニー候補が接戦を演じている。今後の焦点は景気の動向、中でも雇用情勢の動向だ。投票日まで残すところ4ヶ月足らず、この間に失業率が改善の兆しを見せればオバマ大統領に追い風になる。しかし、失業率がさらに悪化すればロムニー候補が有利になる。


・オバマ大統領を阻む失業率8.2%の壁

 米大統領選挙戦はオバマ大統領と共和党ロムニー候補が四つに組む接戦が続いている。ワシントン・ポストとABCニュースが7月5日から8日にかけて実施した世論調査によれば、支持率は両者とも47%の同率だった。前回5月中旬の調査では、オバマ大統領49%に対し、ロムニー候補は45%で4%の開きがあったが、今回これが消滅した。他の調査機関の調査でも、13日発表のギャラップの調査が46%で同率。ラスムッセンの調査ではロムニー候補が46%でオバマ大統領を1%リードしている。

 オバマ大統領が苦戦する背景には景気回復の遅れに対する有権者の不満がある。上記ワシントン・ポストの調査では、オバマ大統領の経済政策を支持する有権者は44%、不支持は54%と過半数を超える。景気が停滞し雇用情勢が不安定なことが有権者の不満を増幅しているのだ。米労働省が6日に発表した雇用統計によれば、6月の失業率は8.2%。この結果、失業率が8%以上に高止まりする事態が過去41週間も続くことになり、1929年の大恐慌以来の記録となった。  第二次大戦後の米大統領で8%台の高い失業率で再選を果たした大統領はいない。失業率が最も高かったのは1984年に再選されたレーガン大統領で7.4%だった。オバマ大統領が投票日の11月6日までに失業率を現在の8.2%から7.4%以下に下げることはまず不可能である。6日のワシントン・ポストによれば、8.0%に下げるだけでも今後4ヶ月間に非農業部門の雇用者が毎月21万9000人ずつ増える必要がある。しかし、労働省の発表では6月の雇用増が8万人、5月が7万7000人、4月は6万8000人だった。この例でわかるように雇用が毎月21万9000人も一気に増えることは米経済の現状ではあり得ない。


・失業率の悪化は共和党の選挙戦略

 雇用統計は労働省が投票日前さらに4回発表し、その最後は11月2日、投票日の4日前となる。選挙戦が五分五分の対決となった場合、この時点での雇用統計発表がもたらす影響は無視できないものになる。雇用統計で失業率が改善の兆しをみせればオバマ大統領には強い追い風になるのは間違いない。しかし、逆に失業率がさらに悪化すればロムニー候補が有利になる。オバマ大統領が就任したあと、共和党指導部は同大統領の再選阻止の戦略を推進してきたが、その戦略が実を結ぶことになる。

 11日付けのニューヨーク・タイムズ(電子版)は「雇用増加の道」と題する社説を掲載。その中で「失業率の悪化は共和党がオバマ大統領の再選を阻止するため意図的に作り出した」と非難した。オバマ大統領は09年1月就任したあと、リーマンショック後の経済立て直しのため一連の景気刺激策や雇用促進策を打ち出した。しかし、下院の支配権を握る共和党は協力せず、オバマ大統領が11年末に提案した「4500億ドルの雇用促進法」は下院で棚上げされたままになった。

 ニューヨーク・タイムズは経済政策研究所の統計を引用して、「共和党が同法の成立に協力していれば、連邦政府から州政府に資金が交付され、州政府が教師や社会福祉職員など専門職110万人を雇用することができた」と指摘。その結果「現在までの雇用増は公共部門を中心に230万人、失業率も現在の8.2%ではなく、7%前後に下落していたはずだ」と主張した。同紙はその上で「共和党は大統領選挙で勝つことを狙って雇用対策を無視した。これは米国民を人質にしてホワイトハウスを乗っ取るのと同じだ」と非難した。リベラルな紙面で売るニューヨーク・タイムズがリベラル派のオバマ大統領を援護したのだ。


・勝敗を分ける最後の鍵は投票率

 選挙戦が終盤までもつれ込んだ場合、11月2日の雇用統計発表に続いて焦点となるのが投票率だ。ワシントン・ポストの調査によれば、民主、共和両党とも党員の10人に9人は自分が所属する党の候補に投票するとすでに決めている。これから決める、あるいは乗り換えるという有権者は極めて少ない。しかし、投票する候補を決めても投票所に行って投票するとは限らない。そこで両候補の選挙対策本部が最後の力を振り絞るのが有権者の狩り出しだ。

 支持者に投票督促の電話をかけ、場合によっては交通手段も提供して投票を呼びかけるが、支持者が熱烈な支持者であるほど狩り出しは容易だ。ワシントン・ポストによれば、オバマ大統領を支持する有権者47%のうち熱烈な支持者は51%、ロムニー候補の38%を大きく上回っている。ロムニー候補が今は保守派を名乗っているが、マサチューセッツ州知事時代には穏健派として行動したことや、モルモン教徒であることなどで共和党保守派が熱烈支持をためらっていることが影響している。最終局面でこれが勝敗を分ける決定打になり得るのだ。


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