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核合意に応じたイランの真意
持田直武 国際ニュース分析

2013年12月14日 持田直武

イランが核開発を縮小する第一段階の措置に合意した。イランは米欧など6カ国と5年前から核開発問題を協議している。この協議で初めて核開発の縮小に応じたのだ。米欧側はイランがこの協議でさらに核兵器開発を最終的に断念することを期待している。今回のイランの合意はこの米欧側の期待に沿う動きなのか、イランの真意はまだわからない。


・合意で核物質製造に待ったがかかる

 イラン核開発を縮小する第一段階の措置は11月24日の協議で合意に達した。要点は3つある。1はイランが濃縮度20%のウラン濃縮を停止し、すでに濃縮済みのウランは濃縮度5%以下に転換すること。2はイラン中部のアラクに建設中の重水炉の建設を中止すること。3はイランがこれら措置を履行すれば、欧米側は現在実施中の原油の輸出削減措置など経済制裁の一部を解除するとしている。

 核爆弾をつくるには高濃縮ウランかプルトニウムが必要だ。イランはこのうち高濃縮ウランを現在製造しているほか、アラクにあらたに重水炉を建設してプルトニウムも製造する設備をつくっている。これに対し米欧側は今回の合意で高濃縮ウランについては製造停止と保有量の縮小、プルトニウムについては重水炉の建設停止という2つの措置を執り、イランが核爆弾製造へと歩むのを止めることを狙っている。


・最高指導者ハメネイ師も合意を評価

 この合意に対しイラン国内ではこれまで考えられなかった動きが起きた。最高指導者ハメネイ師がロハニ大統領に公開書簡を送り「合意を多とする」と評価した。11月26日のワシントン・ポスト(電子版)によれば「交渉に当たった者たちへの高い評価は今後の展開の基礎になる」と今後の核協議への期待も示唆した。イランと米欧など6カ国の核協議5年前から始まったが、最高指導者ハメネイ師がこのような評価をしたのは初めてである。

 ハメネイ師がこの発言をしたことで米欧諸国の中にはイランが核兵器開発問題でも協調的になるのではないかとの憶測が出た。イスラム教シーア派のイランではイスラム教の最高指導者が大統領の上に君臨し国家の統治権を握っている。8月に就任した穏健派のロハニ大統領は選挙戦で穏健な政策を訴えて当選したが、その主張を実行するには最高指導者ハメネイ師の支持が不可欠である。その意味でハメネイ師が核合意を評価したことはイランの核政策にも変化が出るのではないかと思われたのだ。


・平和的核開発の問題点

 だが欧米側に生まれたこの期待は今のところ裏切られつつある。ロハニ大統領は9月の国連演説で「イランが核兵器を製造することはない」と主張した。その2ヵ月後、同大統領は英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで「イランが核施設を如何なる形でも撤去することはない」と述べた。米欧側は今回の「第一段階の合意」のあと長期の合意を成立させてイランの核兵器開発を最終的に封じ込めたい。しかし、イランが核施設の撤去に応じなければそれは難しくなる。

 核開発という言葉は、軍事用の核兵器開発と平和利用の核開発という2つの意味を持っている。ロハニ大統領が「核兵器は製造しない」と言う一方で「核施設は撤去しない」と主張するのは軍事用には手を出さないが、平和利用の権利は行使すると主張しているのだ。しかし、平和利用の核施設も必要なら軍事利用に転換することは容易である。米欧側が注目しいているのは正にこの点にある。ロハニ大統領が平和利用のための核施設を今後も維持した場合、それを軍事利用に転換しないという保証があるのかが問われているのだ。


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