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シリア情勢混沌(3)オバマ対プーチンの対決
持田直武 国際ニュース分析

2013年6月23日 持田直武

アサド政権と反政府勢力が内戦に突入して2年余。米オバマ政権が反政府勢力に軍事援助をする方針に転換した。アサド政権がロシアの軍事援助やイスラム過激派ヒズボラの支援を受けて攻撃力を強化、最近の戦闘で反政府勢力を相次いで破った。米の軍事援助開始はこの戦局の転換を狙うもので、ロシアの反発は必至。米ロ関係が悪化すれば、内戦の激化も必至となる。


・オバマ大統領が軍事援助に方針転換

 米オバマ大統領がシリアの反政府勢力に軍事援助をする方針に転換した。オバマ政権はこれまで反政府勢力がアサド大統領の退陣を要求するのを支持し、同勢力に食糧や医薬品など人道援助を続けてきた。しかし、軍事面の援助を与えることは慎重に手控えていた。オバマ大統領としてはブッシュ政権から引き継いだイラク、アフガニスタン戦争からようやく手が抜ける見通しになったばかりである。再び中東に軍事介入することに慎重になるのは当然だった。

 だが、オバマ大統領はこの方針を転換せざるを得なかった。ホワイトハウスの戦略広報担当ローズ大統領副補佐官は6月13日記者会見し、方針転換の理由としてアサド政権が内戦でサリンを含む化学兵器を4回にわたって使い、死者が100人から150人に上ったことや内戦の犠牲者が国連の推計で9万3000人近くに達したことなどを挙げた。オバマ大統領はかねてから化学兵器の使用はレッドライン(越えてはならない1線)として、シリア政府がこれを越えれば、軍事介入など新たな行動を起こすと警告していた。米国内ではオバマ大統領はこの警告に沿った行動を起こすべきだとの主張が強まっていた。


・アサド政権はロシアやイランの援助で陣容立て直し

 ローズ副補佐官は説明を避けたが、今回の方針転換にはもう1つ理由がある。戦場の兵力バランスが次第にアサド政権優位に変わったことだ。同政権がロシアやイランの軍事援助を得て戦力を増強、戦闘の主導権を取り戻したのだ。反政府勢力は昨年から今年初めまでは破竹の勢いで支配地を拡大。首都ダマスカスを事実上包囲した。これに対しアサド政権側は今年春から反撃に転じ6月5日にはレバノンとの国境に近い要衝クサイルを2週間の激戦の末奪還した。アサド政権は次の目標として北部の中心都市アレッポの奪還を目指して攻勢をかけている。

 このアサド政権の陣容立て直しに貢献したのがロシアやイランの軍事援助である。ロシアは冷戦時代からシリアと友好協力協定を締結し、現在も地中海に面したシリア西部のタルトス港にロシア海軍の補給基地を確保している。ロシアからの軍事物資の大半はこの補給基地を経由して同政権に届くとみられる。一方イランはイラク国内を経由してシリアに軍事物資を供給すると共に、戦闘員も派遣している。5月からはイランの影響下にあるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが3000人の戦闘要員をシリアに派遣、アサド政権の部隊と合同作戦を展開している。アサド政権が6月5日クサイルを奪還できたのはこのヒズボラ部隊の協力があったためとの見方もある。


・オバマ・プーチン会談は物別れ

 この状況下でオバマ政権が警戒しているのはロシアが地対空ミサイルをアサド政権に供与することだ。ロシアは2012年初めて地対空ミサイル(P−800ヤーホント)をアサド政権に供与、最近はその最新型S―300を同政権に売却する方針である。同ミサイルは米軍のパトリオット・ミサイルに相当する交戦能力を持ち、配備されれば反政府勢力の作戦は大幅な制約を受ける。オバマ政権は今後の戦局の展開次第でシリア沿岸の海上封鎖や国内に飛行禁止空域を設定する作戦を検討している。しかし、アサド政権がS−300を手に入れれば、これらの作戦は難しくなる。

 オバマ、プーチン両首脳は17日北アイルランドで会談、シリア問題を協議したが、物別れに終わった。オバマ大統領が休戦の条件としてアサド大統領の辞任を主張したのに対し、プーチン大統領は拒否。米側が要求したS−300ミサイルの供与中止についても、ロシア側はかねてからの売却契約を実行する正当な商取引として取り合わなかった。アサド政権が内戦で優位に立ったことが、プーチン大統領の強い姿勢に反映している。ジュネーブで開催が決まった国際会議でも内戦で優位に立った側が会議の主導権を握るのは間違いない。戦う双方がそれを目指す結果、内戦はさらに激化するに違いない。




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