2013年4月30日 持田直武
シリア政府が内戦で神経ガスのサリンを使用したことが確実になった。使用は小規模だというが、今後の状況は予断を許さなくなった。米オバマ大統領はシリア政府が化学兵器を使えば「政策判断の基礎が変わる」として軍事介入も辞さない方針を示唆してきた。介入をすれば、シリア国内の混乱がさらに拡大するのは確実、余波が中東全域に波及する恐れもある。 ・米英仏がシリア政府のサリン使用を指摘
米政府は4月25日シリア政府が内戦で神経ガスのサリンを少規模だが使ったことを確認したと発表した。米情報機関が入手した生理学的証拠などに基づく判断だという。
シリア政府がサリンを使用したと指摘したのは米政府だけではない。英国外務省も25日「シリア政府がサリンなど化学兵器を使ったという説得力のある情報を入手した」と発表した。また、フランスやイスラエルも同じような情報を入手したことを明らかにしている。しかし、各国ともサリンが使われた場所や時期については説明を避けている。 ・米国内に軍事介入を求める圧力増大
オバマ大統領はシリアの内戦が始まったあと反政府勢力に人道面の支援をしたが、軍事面の支援は慎重に避けてきた。しかし、昨年8月21日の記者会見で「シリア政府が化学兵器を使えば、米国の政策判断の基礎が変わる」と強調。化学兵器の使用にレッドライン(越えてはならない1線)を設定した。シリア政府が反政府勢力や一般市民に対して化学兵器を使ったり、テロ組織に手渡したりすれば軍事介入も辞さないという方針である。オバマ大統領は3月20日イスラエルを訪問しネタニャフ首相と会談したが、そのあとの記者会見でも「シリア政府がレッドラインを越えて化学兵器を使えばゲームの論理は変わる」と述べ、化学兵器の使用は政策転換の引き金になると強調した。レッドラインの設定はシリア政府がこれを越えないよう牽制するのが狙いだった。 ・国際社会の意志統一は絶望
米政府はサリンなど化学兵器が使われた場所を明らかにしなかったが、関係筋によれば次の3箇所である。シリア西部の中心都市ホムスと首都ダマスカスの近郊、それに北部の主要都市アレッポだ。いずれも政府軍と反政府軍が激戦を展開した地域である。化学兵器が使われた時期はホムスが昨年12月、ダマスカスとアレッポは今年3月。政府軍と反政府軍のどちらが使ったのかは分かっていない。双方がお互い相手が使ったと主張して、国連に調査を要求しているのだ。このため国連は4月はじめ中立国の専門家からなる15人の調査団を編成、先遣隊がシリアに向けて出発した。ところが、一行がシリアに着く直前、国連とシリアの間に調査地域に関して意見の違いがあることが判明、先遣隊はキプロスで足止めになった。 掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。 持田直武 国際ニュース分析・メインページへ |
Copyright (C) 2013- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.